「デザインをエシカルの入り口に」デザイナーの一法師拓門さんが語るエシカルファッションのこれから
日本を代表するZ世代クリエーターであり、グラフィックデザイナー兼クリエイティブディレクターとして活躍する一法師拓門さん。一法師さんは高校卒業後、ヨーロッパに出てファッションデザインを学び、国内外のファッションブランドにてデザイナーとして活躍。現在は独立し、デザイン事務所「ConcePione(コンセピオン)」の代表を務めています。
また、中高生が実際にウェアの制作をしながら、商品ができていく過程が人や環境にやさしいものになっているかを学び、考え、発信するワークショップ「TOKYOエシカルファッションチャレンジ」ではウェアのデザインを監修しています。
「TOKYOエシカルファッションチャレンジ」のレポートはこちらから
そんな一法師さんに、「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」への意気込みや、世界的なエシカル消費のトレンドについてお話を伺いました。
一法師拓門さんとエシカルとの出会い
―エシカルファッションに興味を持ったきっかけはありますか。
最初は受動的で、誰かから聞いたのがきっかけでした。エシカルの情報を耳にするうちに興味が湧いて、自分から能動的に情報収集するようになりました。
ファッション業界は環境負荷が高い産業なので、廃棄される衣料品の量も国がデータを出している。そういった数値を見るうちに、安易にものを買わない、買うなら長く着られる服を買うといったように、自分の行動も変化していきました。
―これまでに取り組まれたエシカルなプロジェクトについて教えてください。
青山学院大学の学生服飾団体の顧問をしています。学生たちと一緒に活動していく中で、エシカルとファッションを掛け合わせた企画を作ることが多く、毎年学生たちを率いて様々な企業・ブランドとのコラボレーション企画を実現しています。
もうひとつが、スポーツチームのアップサイクル品。Jリーグ、プロ野球、バレーボールなどのチームのユニフォームや、試合で貼るポスターといった廃材をバッグに生まれ変わらせる取組をしています。
デザインを入り口にして、エシカルを広めていく
―「エシカル」をファッションに落とし込むうえで意識していることはありますか。
「いかにデザインで気を引けるか」を意識しています。外国と日本の差で言うと、日本のエシカル製品は「これはエシカルだから良い」というストーリーで売っていて、デザインが二の次になっている気がします。
ですが、海外では「デザインが良くて、たまたま手に取ったものがエシカルだった」というように、デザインがファーストコミュニケーションになっている。そのほうが正しいルートだと自分は思うので、「いかにデザインで人の心を動かせるか」に注力してやっています。
具体的には人の記憶に残るデザインや意外性。「こういったエシカルの解釈もありか」といったように、物事が持つ従来のイメージを覆すデザインをすると、それが印象に残るので意識しています。
―いま注目しているエシカルファッションに関する活動はありますか。
アップサイクルという活動自体に注目しています。アップサイクルの良さは、目に見えてわかりやすいところ。例えばリサイクルだと一旦原料まで戻すので、消費者からすると流れがわかりにくい。
ですがアップサイクルは、「スポーツの試合で使う旗がバッグになっているな」と見ればわかる。これは再利用されたものだなと感じ取れるし、それにより人の心を動かせると思います。
―世界的なエシカル消費について、現在トレンドになっているものはありますか。
現在日本ではエシカルな取組やプロジェクトが、もう炭酸の泡のように、数えきれないくらい発生している。たくさんの小さいプロジェクトが生まれているのが現在のトレンドで、次に来るのはプロジェクトをまとめ上げて、リードしていくブランド。エシカルのブランド化が始まると思います。
世界全体で言うと、スイス発のアップサイクルブランド・フライターグのような。「アップサイクルと言えばこのブランド」という存在が、日本でも出現するのではないかと思います。
エシカルとは定義できないもの。柔軟な発想が世の中を変えていく
―「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」のワークショップで気付かれたことはありますか。
学生たちのエシカルに対するリテラシーが高まっていると感じています。学校の授業などで耳にして、エシカルというワードが共通言語になっている。
中高生だと、エシカルという言葉の意味がわかるだけですごいので、まだ受動的なフェーズで構わない。そこから彼らの興味を能動的な方向に動かせるかは、我々大人の課題だと思いました。僕自身としては、今回のワークショップを通して「エシカルデザインって楽しい」ということを伝えられたらと思います。
また、ワークショップ中に複数の学生から「エシカルとは定義できない、定義すべきことではない」という発言が出て鳥肌が立ちました。形で例えると、エシカルイコール丸だとか四角だとか、はっきり定義しなくても良い。
デザインで言うとアブストラクトパターン(具体的なモチーフを持たない抽象的な柄の総称)だなと思い、今回のワークショップでも表現の手法をそちらへ切り替えました。
―「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」を通して中高生に伝えたいことはありますか。
「ゲームチェンジャー(世の中の流れを大きく変える存在)」になってほしい。僕も今、日本におけるエシカルな流れを大きく変える人間になろうと挑戦しています。若者が取るアクションのひとつひとつが、社会を大きく変えていく。自分たちの一挙手一投足が、社会を変える力があるとわかってほしい。
僕自身も先ほどのアブストラクトパターンのように、学生から柔軟な発想をもらって、考えを変えられた人間です。僕のクリエイティブな扉を開けてくれたことに感謝しています。
ですので、既存のエシカルのイメージにこだわったり、大人の顔色を伺ったりすることなく、自分が思ったことをどんどん発信して、やりたい表現を貫いてほしいと思います。
―これからのエシカルファッション業界の目標はどのようなものでしょうか。
やはり「ブランドを作る」ことです。今まさに、僕のデザイン事務所と企業で手を組んで、デザイン性が備わったエシカルブランドを生み出そうとしています。
スポーツチームとの取組を経てアップサイクルに可能性を感じたからこそ、アップサイクルを軸にブランドを作り込んでいく。それが僕自身の目標であり、達成することで業界が次のステップに進めると思います。
また、日本ならではの目標で言うと、デザインファーストになってほしい。ストーリーだけで売り込むと、いずれ行き詰ってしまうと思うので。今後は僕みたいに、エシカルなリテラシーのあるデザイナーが増えてくるはずなので、デザインを有効なツールとして積極的に使ってほしいです。
―この記事を読まれる方へのメッセージをお願いします。
消費者の皆さんにもデザインファーストでものを選んでほしいと思います。今エシカルな製品は、どちらかというとバランス型のデザインが多い。僕としてはもうちょっと振り切った、人によって好き嫌いが分かれるくらいの極端なデザインが生まれてほしいと思います。
そこは作り手である僕や企業、デザイナーたちが、エシカル製品のデザインを変えていくので。消費者の方には純粋に自分が好きなデザインを選んで、消費行動に移してほしいと思います。