プロに学ぶ、環境にやさしい服作り。TOKYOエシカル ファッションチャレンジをレポート<前編>

私たちが日々着ている洋服をテーマに、中高生が実際にウェアの制作をしながら商品ができていく過程が人や環境にやさしいものになっているかを学び、考え、発信する「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」。プロのデザイナーと一緒に、全8回のワークショップを通して、エシカルファッションの制作工程を知り、実際にコンセプト開発からデザイン制作、製品の広め方までを体験して、人や環境にやさしいウェアを制作します。

2024年8月20日(火)に開催された2回目のワークショップでは、企業のエシカルな取り組みや、ウェア作成に使用する素材について学ぶとともに、制作するファッションのコンセプトを考えました。<前編>

※本記事は前後編の2部構成です。

 

不用品を新たなアイテムへ。エシカルファッションの具体例

まずはエシカルファッションの具体例を学ぶために、TOKYOエシカルのパートナー企業で、「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」で衣装制作・技術協力をしていただく三栄コーポレーションの山田敦さんから、企業で取り組んでいるエシカルな取組について教えてもらいます。

三栄コーポレーションの仕事について説明する山田さん

生活用品の専門商社である三栄コーポレーション。服飾雑貨や家具、家電や家庭用品など、私たちの暮らしに寄りそう商品の製造・販売を手掛けています。

近年はCO2排出の影響で地球温暖化が加速し、異常気象が頻発するなど環境問題が深刻化しています。そこで三栄コーポレーションではエシカルな社会を作るため、「より地球にやさしい」をコンセプトに、人にも環境にもやさしい生活用品を開発・販売する“Our EARTH Project”を立ち上げました。

三栄コーポレーションの取り組みで生まれたエシカル商品

海洋ごみから生まれたバッグ「GOT BAG」や、自動車の廃材から生まれたバッグ「AIRPAQ」。廃棄されるおもちゃから作られた腕時計「YOT WATCH」が紹介され、最後に生地の端切れから生まれた洋服が登場します。

華やかなイメージのあるファッション業界ですが、近年は大量生産や大量廃棄による環境負荷が問題視されています。日本の家庭からは、1日あたり大型トラック120台分もの洋服ごみが捨てられていると聞き、問題の深刻さに聞き入る学生たち。

さらに、「たった一着の洋服を作るためには、浴槽11杯分もの水が必要。洋服を作るときに出すCO2排出量は約25.5kgと、500mlのペットボトルに換算すると約255本分にもなります」という話の後で、「知らなかった人?」と問いかけると、全員の手が上がりました。

Pure Wasteの解説をする山田さん

この問題を解決すべく生まれたのが、リサイクルコットン「Pure Waste(ピュアウェイスト)」。生地の裁断時に出た端切れから再生した素材です。端切れを洋服に再利用することで、新たに綿の栽培や染色をする必要がなくなり、水の使用量やCO2排出量を大幅に削減できるとのこと。

これらのプロジェクトで、三栄コーポレーションが重視しているのがデザインであると山田さんは話します。ただエシカルであるだけでなく、手に取る人が「持ってみたい」と思える商品を意識して作られているそうです。

今回のプロジェクトへの意気込みを語る坂口さん

「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」で講師を務めるエシカルディレクターの坂口真生さんも、「最近はデザイン性に優れたエシカル製品が増えている。今回のプロジェクトでもレベルの高いものを作りたい」と語ります。

続いて山田さんから、ワークショップで使用する生地について紹介を受けました。今回使用するのは先ほど紹介した「Pure Waste」と、無水染色ポリエステル「e.dye(イーダイ)」。

「e.dye」は石油ではなく、廃棄されたペットボトルを原料としたポリエステル。製造過程で粉末のときに色を付けてから糸にするため、染色のために水を使用しません。服作りでは染色するときに水を大量に使うため、この工程により水の使用量は85%削減。化学薬品の使用量は90%、CO2排出量は12%削減されるとのこと。

さらに「e.dye」には、作成したQRコードにスマホをかざすだけで、1着あたりどれだけ水や化学薬品を削減できたか確認できるギミックを搭載しているそうです。皆で制作した服にコードを付けることで、エシカルな取り組みを友達に知ってもらうきっかけになるかもしれません。

 

エシカルなデザインとは?コンセプトの重要性

講義をする一法師さん

企業のエシカルな取り組みについて学んだところで、「TOKYOエシカル ファッションチャレンジ」でウェアのデザインを担当するデザイナーの一法師拓門さんの講義に移ります。一法師さんは高校卒業後ヨーロッパの学校でデザインを学び、国内外のファッションブランドでデザイナーとして活躍。現在はデザインの他に、ブランド戦略のディレクターや、青山学院大学の服飾団体の顧問としても活動されています。

自己紹介に続いて、一法師さんが取り組んでいるエシカルファッションの事例が2つ紹介されます。まずはオーダースーツ。ファッション業界では大量生産・大量消費が問題視されていますが、一人一人の体に合わせて作るオーダースーツなら、作りすぎて廃棄することはなく、環境への負荷を軽減できるとのこと。

スポーツチームのアップサイクルアイテムについて説明する一法師さん

もうひとつは、スポーツチームがさまざまな理由で不要となった廃材を使って、新たなアイテムに生まれ変わらせるプロジェクト。Jリーグやプロ野球、バスケットボールやラグビーなど、さまざまなプロスポーツチームのアップサイクルアイテムのデザインを手掛けているそうです。

これらの取り組みにおいて、一法師さんは「自分自身が『ゲームチェンジャー』になっているように感じる」と語ります。ゲームチェンジャーとは、世の中の流れを大きく変えてしまう存在のこと。日本は欧米諸国と比べてエシカルの動きがスローだからこそ、若い人たちがゲームチェンジャーになるチャンスが残されていると伝えます。

そして一法師さんは今回のグループワークについて、「デザインのコンセプトをしっかり定めていきたい」と話します。

すべてのデザインには「生まれ」があり、胸ポケットの形ひとつとっても、そのデザインになった理由があるというのが一法師さんの考え。ただ見た目がおしゃれだから、他人と違うから良いデザインにはならない。細部まで自分なりの根拠が詰まっているのが良いデザインであり、一法師さんもデザインする際にはコンセプトを重視しているそうです。

根拠のあるデザインを生み出すコツは、両親や自分自身など、身近な人が自分の作った服を着ている場面を想像すること。自分が着るとしたらどんな機能があると良いか想像すると、アイデアが出しやすいと教えてもらいました。

一法師さんの話を聞く学生たち

そして、もしグループワークで「エシカルなデザインってなんだろう?」と考えすぎてしまったら、一旦エシカルの存在を忘れて、純粋に自分がやりたいデザインを追求して欲しいとアドバイスします。

学生たちも講義に興味津々。さて、グループワークの様子は後編で詳しく紹介します。

後編はこちら

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