Ethical Cities:捨てる前に直す選択が地域貢献に。アムステルダムに根付くリペア文化

世界の都市の人びとの日常やライフスタイルに息づく“心地よい選択”を、現地の風景から紹介する「Ethical Cities」。今回は、壊れたものをすぐに捨てず、地域の人と一緒に直して使う文化が根づくアムステルダムの習慣を、オランダ在住のライター山本直子さんが紹介します。 

壊れたら、まず「直せるか」を考える

photo:Martin Waalboer/ Stichting Repair Café International

家電製品や衣服、子どものおもちゃなどが壊れたら、あなたはどうしますか?すぐに捨てて、新しいものを買い替える人が多いのではないでしょうか?私もモノが壊れたらすぐに買い替えることを当たり前としていました。しかし、アムステルダム発の「リペアカフェ」を知ってからは、「修理」という別の選択肢があることに気付きました。 

リペアカフェは、壊れたものをボランティアと一緒に直すことができる場所です。1カ月に1~2回、地域の主催者が開催し、引退したエンジニアなどのボランティアが無償で修理を手伝ってくれるのです。オランダ人のマルティネ・ポストマ氏が考案したコンセプトで、2009年にアムステルダムで第一号がオープンし、現在は市内に約50カ所、オランダ国内で1,000カ所以上のほか、ヨーロッパをはじめとする世界各地にも広がっています。

修理の場が、地域の交流拠点になる

photo:Martin Waalboer/ Stichting Repair Café International

photo:Martin Waalboer/ Stichting Repair Café International

リペアカフェが開かれる場所は、公民館のような地域のコミュニティスペースがほとんどです。住民はウェブサイトで地域のリペアカフェが開かれる日時をチェックして、壊れたモノを持っていきます。家電から衣服、おもちゃ、自転車など、修理の対象となるものは場所によってさまざまです。

私も一度、友人とともに地元のリペアカフェに壊れた電子レンジを持ち込んだことがあります。会場には引退したエンジニアの方や、手先の器用な方などが、ボランティアとして5~6人働いていました。電子レンジはエンジニアの方の手慣れたスクリュードライバーさばきによって外フレームが外され、中身の構造がむき出しになりました。彼は部品を外したり、何人かと相談したりしながら、原因を突き止めます。最終的には、一部の部品が摩耗していることが分かり、その部品の買い方や取り換え方まで教えてもらえました。友人は少額を寄付し、私たちは彼らとコーヒーを飲んで、一件落着を祝ったのでした。

周りを見ると、ほかにもコーヒーメーカーや掃除機を修理している人達がいました。自分だけではなかなか勇気を持って分解できない家電製品も、みんなで工具を使いながら試行錯誤する過程は、とても和やかで、充実した時間です。「修理って楽しい!」――そんな体験が地域に広がり、人々のエシカルな行動を自然と促しているのです。

会場には寄付金で賄ったお菓子やコーヒーが置いてあり、中には歓談だけのためにふらっと立ち寄る近所の人たちもいます。修理には時間がかかることもありますが、コーヒー休憩を入れながら、みんなで楽しく過ごすコミュニケーションの場でもあるのです。

「修理」を仕事に。ユナイテッド・リペア・センターの挑戦

photo:Barbara Kieboom/United Repair Centre

一方、アムステルダムには「修理」をビジネスにしている例も見られます。「ユナイテッド・リペア・センター」という企業では、衣服の修理を専門としたビジネスを展開。「パタゴニア」「ザ・ノース・フェイス」「リーバイス」など、世界的なアウトドア・スポーツ・ファッションブランドからの依頼を受け、テーラーの職人技を活用し、衣服の有償修理を行っています。

衣料品業界では、壊れたり古くなったりした商品はすぐに返品・破棄され、新しい商品に交換されます。こうした廃棄物の量は、年間1億トンに及ぶといいます。この業界の悪しき習慣にメスを入れ、修理を通じてコスト効率よくブランド価値を維持しながら、環境負荷を抑えるのが同社の目的です。具体的には、保証期間内の修理対応のほか、クリーニングや修理を通じた売れ残り商品の再販、時代遅れの商品や不良品のリデザイン・再生などに取り組んでいます。

さらに同社は、さまざまな背景から就労の機会が限られている人々の雇用創出もミッションに掲げています。衣服の修理に必要な技能を身につけるための研修を提供するなど、人材育成にも取り組んでいます。こうした取り組みは、職人技を持つ人材の不足に悩む衣料品業界にとっても、重要な役割を果たしています。

「買い替える」以外の選択肢を

photo:Martin Waalboer/ Stichting Repair Café International

壊れたら、新しいものに買い替える。それは便利で当たり前の選択かもしれません。でも、アムステルダムの人々の暮らしを見ていると、その前に「直して使う」という選択肢があることに改めて気付かされます。

修理して長く使うことは、無駄にしないだけでなく、そのものへの愛着を深めたり、人との新しいつながりを生んだりすることもあります。日本でも、修理店やメーカーのリペアサービスを利用するなど、できることは身近にあるはず。

「捨てるか、買うか」だけではなく、「直せないかな?」と考えてみる。そんな小さな選択から、私たちのエシカル消費を始めてみてはいかがでしょうか。

執筆/山本直子(ライター)

オランダ在住ライター。同国のイノベーション、デザイン、教育、ライフスタイルなどを日本の各種メディアで紹介。また、山形大学の国際連携・客員准教授、オランダ・ブラバント州のアドバイザーとして、日本とオランダ、欧州をつなぐさまざまな活動を手がける。著書に『週末は、Niksen。』(大和出版)。慶應義塾大学文学部卒。

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