Ethical Entertainment& Stories:“サステナブル”疲れに、おすすめの一冊 『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』
エシカルは「学ぶ」より、まず「感じる」もの。この連載では、映画や書籍などの物語を通して、日々の選択にやさしく目を向けます。第1回は、多数のメディアで書評を手がけ、自らも大切にすべきものを感じ、選ぶことでシンプルな暮らしを実現するライター今泉愛子さんが、一冊の本から広がる視点を紹介します。
サステナブル疲れのいま、あらためて読む理由
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「正しいことをしよう」という気持ちは、知らず知らずのうちに心の疲れにつながることがあります。うっかり屋な私はエコバッグを忘れがちです。スーパーでレジ袋を買うとき、軽く落ち込みます。これは最近増えている、エシカル疲れかもしれません。『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』は、私に「“正しくあろう”と頑張りすぎるよりも、無理なく心豊かに暮らすことが大切なんだ」と気づかせてくれた一冊です。
ちょうど約1年前、2025年5月に他界したウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏が、2012年に開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)で行ったスピーチをまとめたこの本は、いまの私たちが求める暮らしとは何かを改めて考えるきっかけを与えてくれます。
ムヒカ元大統領、伝説のスピーチとは?
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ホセ・ムヒカ元大統領は、在任中もウルグアイの首都モンテビデオ郊外にある農場で暮らしました。給与の大部分を社会福祉のために寄付し、手元に残したのはその1割程度だったそうです。“世界でいちばん貧しい大統領”と呼ばれたのは、そんな生き方からです。
でも彼は、自分のことを貧しいとは思っていませんでした。2012年にブラジル・リオデジャネイロで開催された国連持続可能な開発会議(リオ+20)でのスピーチで「貧乏とは、少ししか持っていないことではなく、かぎりなく多くを必要とし、もっともっととほしがることである」と発言しています。
彼の生き方と一致していたからこそ説得力があるこの言葉は、世界中に広まり、本の発売をきっかけに日本にも2016年に来日。東京外国語大学で行われた講演会は大きな話題を呼びました。
ウェルビーイングとは何か――自分が何に満たされるかを感じ、選択をする
【汐文社公式動画】世界でいちばん貧しい大統領から日本へのメッセージ
『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』は私たちに、何に幸せを感じるのか、どう生きることが幸せにつながるのかを問いかけます。
私はコロナ禍を経て、必要なものを必要な量だけ買うことがうまくなりました。それで十分満足しています。この充足感は身体や心が感じているもの。「正しいから選ぶ」ではなく「これがいい、幸せだと感じるから選ぶ」——その感覚がエシカル消費の入り口なのだと、この本を読んで納得しました。「こうすべき」と自分を縛らなくていい。自分が何に満たされるかを知ることで、選び方は変わります。自分の幸せから始まる選び方は、やがて社会や環境を思いやる選び方につながるのではないでしょうか。
『世界でいちばん貧しい大統領のスピーチ』
くさばよしみ編/中川学 絵
汐文社刊
ISBN978-4-8113-2067-0
執筆者/今泉愛子(ライター)
雑誌「Pen」の書評を2002年から20年間担当。東京と茨城県土浦市で2拠点居住中。松浦弥太郎著『松浦弥太郎の「いつも」 安心をつくる55の習慣』等多くの書籍構成も手がける。世界マスターズ選手権大会5000m3位(2022年)、ランナーとしても活動。
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