小田急電鉄が描く100年続く観光 ー 箱根を守りながら旅も楽しむ「エシカル旅プラン」の魅力とは

「エシカル消費」という言葉を耳にしたことがあっても、旅行中に実践するのは難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。

エシカル消費と親和性のある取組として「サステナブルツーリズム」があります。これは地域が旅行者を受け入れつつ、環境保護や地域経済の活性化などの持続可能性を高め、観光客・産業・地域住民が恩恵を受けられるようにする考え方です。

旅行者が手軽に地域貢献に参加できるような工夫を行っているのが、首都圏で鉄道を運行する小田急電鉄株式会社です。同社は旅行商品に1,000円をプラスするだけで、神奈川県箱根町の環境保護や地域貢献に参加できる「エシカル旅プラン」を販売しています。

今回は、小田急電鉄株式会社観光事業開発部の小澤 毅(おざわ たけし)さんに「エシカル旅プラン」の特徴や同社が描く「100年先へ続く観光」への挑戦をお聞きしました。

箱根の未来を守る新しい旅のかたち|エシカル旅プラン誕生の背景

「エシカル旅プラン」は2024年6月より発売しています。小田急電鉄の人気旅行商品「箱根ベストパック」(宿泊・往復ロマンスカー特急券・箱根フリーパスのセット)にエシカル旅代金1,000円を追加することで購入ができ、旅行を通じて持続可能な地域づくりに参加することができます。

エシカル旅代金は、お客さまが箱根での移動や宿泊をしたときに排出するCO2量を算出したオフセット代金500円の他、環境保全の活動支援金として箱根町へ寄付することで、自然景観や歴史・文化遺産の保全、オーバーツーリズムへの対策など、自然・文化・生活環境の改善に役立てられます。

※企業や個人が温室効果ガス排出量の削減努力をしたうえで、削減しきれない排出量を他の場所での削減活動や吸収活動に投資することで埋め合わせる取組

小澤さんは、「箱根周遊の旅の新たな楽しみ方として、エシカル消費を通じて脱炭素や地域応援などの観点から地域社会の課題解決への貢献を提案するものです」とその特徴を話します。

小田急電鉄では2021年まで環境配慮型の商品として鉄道やバスを利用した際のCO2をオフセットする「箱根旧街道・1号線きっぷ」を販売していましたが、本プランでは宿泊施設で食事や宿泊をした時に排出されるCO2もオフセットをすることでより包括的なアプローチを目指しているといいます。

取組のきっかけは、2019年の台風19号による甚大な被害でした。箱根登山電車の長期運休や、芦ノ湖畔が冠水するなどの被害が発生。小澤さんは、「近年は災害が頻繁に発生しているので、箱根で事業を継続するためには、地域を維持するための取組が必要だと思い立ったのです」と、商品化の理由を振り返ります。

世界に一つのNFTアートを「エシカルパスポート」

「エシカル旅プラン」にあるもう一つの特徴は、エシカル消費を証明する「エシカルパスポート」です。これはお客さまへ送付されるお礼メールや証明書の発行とは異なり、小田急電鉄ならではの価値を提供しています。

お客さまには旅行終了後、箱根の伝統工芸「寄木細工」をモチーフにしたNFTアートが提供されます。小澤さんは「お客さまに提供するNFTアートは全て世界に一つだけのオリジナルです。世界で唯一の寄木細工モチーフを、エシカル消費への貢献の証明としてお届けするのが最適だと考えました」と導入の経緯を振り返ります。

※ブロックチェーン(情報記録)技術を用いて、コピー可能なデジタルデータに対して「唯一の作品である」という電子証明書を発行することにより、その価値を担保するデジタルアート。

NFTアートは将来にわたって価値を持ち続ける唯一の作品になるだけでなく、WEBサイト上で公開して一つ一つのアートを合わせることで他の参加者とのつながりを感じられる集合作品にもなる価値が込められているといいます。

普及拡大への挑戦|課題克服と新たな展開

「エシカル旅プラン」を選択するお客さまの特徴として、小澤さんは「年代別では20代の若年層が多く、サステナブルやSDGsの教育を受けた世代から支持を得られていると感じています」と現状を見つめています。

広島県や三重県など遠方からの予約もあり、お客さまからは「環境保全のためになると思い利用しました」といった喜ばしい声が寄せられているとのことです。

その反面、エシカルな旅行をより幅広い層に体験してもらうための課題も存在します。小澤さんは「基本的に他の商品より1,000円高くなっているので、その価格差にある価値をどう伝えるかが課題です。ネット販売となると他社との料金が比較されやすいですから」と現状を語ります。

こうした心理的な課題を解決するため、今後はNFTアートや寄付などの「堅苦しいイメージ」を、エコバッグを持ち歩くような「お手軽な感覚」へと変えていきたいとのこと。エシカルな貢献を可視化することで、誰もが自然な形で環境配慮に参加できる商品の実現を目指しているといいます。

また、利用できる施設の拡充や、湯河原・伊東エリアなど他地域での展開、インバウンド旅行者などに向けても商品の魅力を発信できるような取組も目指しているとのことです。

鉄道会社だからこそ実現できる「100年先へ続く観光」

小田急電鉄ならではの強みについて、小澤さんは「鉄道で箱根に行けることが一番の強みです。箱根登山電車などもグループ会社で運営していますから、交通手段での移動そのものが環境に配慮したものになるんです」と説明します。

鉄道は自動車などと比較するとCO2排出量が少なく、利用することで環境負荷の軽減につながります。さらに小田急グループでは箱根登山電車やケーブルカー、バスなどの交通インフラから宿泊施設まで、箱根観光に必要なサービスを一体的に提供できる強みがあります。

(出典:東京都環境局「交通機関の種類とCO2排出量」

小田急電鉄が描く「100年先へ続く観光」には、持続可能な観光を実現するための明確なポイントがあるとのこと。

小澤さんは「観光によるCO2排出をゼロにすることをはじめ、地域への資金還流と自然資源のメンテナンスや訪問地の分散化といった環境整備、『その土地の記憶や特徴を旅行者が再認識し、それを大事にする気持ちをつくること』を目指しています」と4つのポイントを紹介しました。

同社では、環境に配慮した観光商品を通じて地域住民の満足度を高めながら、旅行者を持続可能に受け入れる体制の構築を目指しています。これは、地域・観光客・企業の「三方良し」を実現する新しい観光モデルであるといえるでしょう。

「箱根に暮らす方も訪れる方も、そして私達企業も一緒に箱根の未来を、10年後、20年後の当たり前のために、今からでもできることに取り組んでいきたいです」という小澤さんの言葉からは、長期的な視点で地域と向き合う姿勢を感じ取ることができました。

・・・
エシカル消費に関する専門用語を解説しています。
「エシカル用語辞典」はこちら

記事一覧へ