ふだんの暮らしに、地元の彩りを―JR中央線沿線に芽吹く、地産地消のいま
日々のお買い物で手に取った野菜がどこで育ったのか、お土産として選んだお菓子には、作り手のどんな想いが込められているのか――。
近年の持続可能な社会の実現に向けて、地域で作られたものを買うことで地域活性化や
産業の維持にもつながる「地産地消」が注目されています。
東京の中心部を東西に往来するJR中央線。その沿線で「駅」を拠点とした新しい地産地消の取組が行われています。
今回は、生産者と消費者をつなぎながら、地域の魅力を引き出す取組をしている株式会社JR中央線コミュニティデザインの皆さんに、3つの地域プロジェクトの詳細を伺いました。
●「ここにしかないくらし」を創造し、地域とともに歩む企業の挑戦
同社の事業や取組を説明する森さん
株式会社JR中央線コミュニティデザインは、JR東日本グループの一員として、ショッピングセンター、駅運営、教育、多様なくらしづくりの4つの領域で事業を展開し、JR中央線沿線の活性化に取り組んでいます。
同社のビジョンは「ここにしかないくらしをつくる」ということ。
「地域に暮らす人々が『住んでよかった』と感じ、訪れる人が『来てよかった』と思えるような、価値のある地域づくりを目指しています」と経営企画部の森さんは話します。
さらに、地域に根差したプロジェクトを進める上で大切にしているポイントがあると森さんは続けます。
「私たちは地元企業をはじめ、近隣の学校やクリエイターの方など、地域のさまざまな方と協働しながら地域活性化を図っています。それぞれの活動内容は違いますが、共通して大切にしているのが地域との対話です。人と人をつなぎ、地域との連携を深めながら多様なくらしづくりを目指しています」
●地域野菜の魅力を再発見「こくベジ」がつなぐ「地域の絆」
「こくベジ」を取り扱っているセレオ国分寺
JR中央線沿線にある国分寺市は、約300年にわたる農業の歴史を持っています。しかし、近年は宅地化による農地の減少や後継者不足といった課題に直面しています。
こうした背景を受け、同市では「こくベジプロジェクト」を推進。
国分寺産の農畜産物をPRし、飲食店がそれらを使ったオリジナルメニューの提供を通して市内消費などを促進することにより、市内の活性化を目指しています。
(出典:国分寺三百年野菜 こくベジ プロジェクトとは|国分寺市、2024年)
地域密着型のプロジェクトを手がけた大熊さん
「こくベジプロジェクト」が発足した当時、国分寺駅のショッピングセンター「セレオ国分寺」で食品担当を務め、地域の住民でもあった大熊さんは、「こくベジ」の取組に着目し、「オブザーバーとして会議に参加させていただけませんか」と、自ら市に働きかけたといいます。
会議の中で「販路の確保に限りがある」という生産者の課題を見つけた大熊さん。
その課題に向き合うために生産者や地域の声に耳を傾けることから関わり始め、セレオ国分寺内にある飲食店でこくベジを使ったメニューを開発する取組を提案し、生産者とレストランをつなぐ役割を担いました。
「生産者の方の想いを汲み取り、私たちに何ができるか考える等身大のコミュニケーションが、プロジェクトを動かす原動力になりました」と当時を振り返る大熊さん。
現在ではその地道な取組が実を結び、セレオ国分寺が「こくベジプロジェクト」の主要な取引先として地元生産者の重要な販路として機能し、多くの方々へ国分寺産の農畜産物を伝えているとのことです。
●西国分寺の実りと温もりを大切な人へ届ける「にしこくおみやげプロジェクト」
西国分寺駅で展示されているお土産品
西国分寺ならではのお土産が欲しい――。
地域住民の声から誕生したのが、「にしこくおみやげプロジェクト」です。
駅の利用者や地域住民から寄せられた、切実な「希望」などに応えるべく、地域住民や駅利用者へ行ったアンケートの回答をもとに発案されました。
「私たちが暮らす西国分寺のお土産が、帰省するたびに手に取られる“定番”として、離れて暮らすご家族に毎年楽しみにしてもらえたらうれしいことですよね。そんな想いから、ここにしかない、ストーリー性があるお土産づくりを目指しています」と、プロジェクトに携わった天野さん・石井さんはおっしゃっています。
(写真左から)石井さん、天野さん
「にしこくおみやげプロジェクト」で特に大切にしているのは、「誰よりも深く地域のことを考えよう」という姿勢。2023年に行われた、西国分寺駅の開業50周年記念事業を通じて地域の大学や企業との交流を深め、その連携を発展させてきました。また、農業体験への参加や支援を通じて、地元生産者とのつながりも育んでいます。
お土産の材料には地元の野菜や果物である「こくベジ」が使用されています。その背景には「国分寺の土壌で生産者の方々が愛情込めて育てた果物や野菜本来の甘みと美味しさを届けたいんです」と、生産者の想いを発信したいというお二人の願いも込められています。
2025年5月からはスイーツの素材に「のらぼう菜」という菜の花の一種である地域の伝統野菜 を用いることで、お客さまから「地元の珍しい野菜の味なので、贈り物としても話題になる」という声が寄せられ、国分寺農産物の発信活動にもつながっています。
●「語り部」として生産者の想いを紡ぐ「はちまるステーション」
東京都西部に位置する八王子市は、八王子駅周辺、南大沢、高尾、恩方などの広範囲に魅力的な地域が点在しています。「多様性のある地域なので、一つにまとめようとするまちづくりの実現には、難しさもありました」と、以前催事運営も担当していた大熊さんは振り返ります。
そんな背景から2021年12月に誕生したお店が「はちまるステーション」。
JR八王子駅に直結する「セレオ八王子」にある同店は、地域で作られた商品や農産物などを取り扱うアンテナショップです。「人手が足りず、出店が難しい」という生産者の悩みの声に応えるため、「私たちが生産者の想いを代わりに伝えよう」と、開店を模索したといいます。
はちまるステーションでは地元で心を込めて作った商品が豊富
そして、同店に秘められたポイントを、大熊さんは次のように語ります。
「お客さまへ地元のものを販売するとともに、農作物や商品の“背景”を伝える役割もあります。どんな人が、どんな想いで作ったのかという“ストーリー”をお届けする“語り部”でありたいと思っているんです」
現在は商品説明のPOPや写真を通して”ストーリー”を伝えつつ、地元の生産者に店頭に立っていただき、試食会や試飲会を開催することでものづくりの魅力を体感していただく企画にも取組んでいます。
そして、「JR中央線沿線には、各地域の魅力的な商品がたくさんあります。それを一つずつ厳選し、”線”として繋ぐことで、沿線全体の魅力発信も目指しています」と話す大熊さん。
実際に「はちまるステーションで見て足を運びました」といった声も寄せられており、生産者のもとを直接訪れる方も増えるなど、地域内での交流も広がりを見せています。
●「点」から「線」へ――、地域とともに描く持続可能な未来
JR中央線沿線の地域活性化の在り方について語る大熊さん
今回ご紹介した3つのプロジェクトでは、「地域住民や生産者との対話」をはじめとする”コミュニケーション”を丁寧にしていることが特徴です。
「対話をさせていただくことが大切であり、特にリアルなコミュニケーションが重要です。実際にお会いして話し合うことで初めて知ることも多いですね。」と大熊さんが話すように、実際に現場に足を運び、生産者や地域の人々の声に耳を傾けることから始まる「顔の見える関係」づくりが、すべての基盤になっています。
そして、「駅」を拠点にエシカル消費を実践するための具体的な入口を見出し、「地産地消」の商品を取り入れるきっかけも創出しています。
みなさんも、地域で作られたものを買ったり、生産者の想いにふれることで、地域への理解やつながりを深めてみませんか。温かみのある商品の持つ手触り感や彩りが、日々の暮らしを豊かにするかもしれません。