
制服をリメイクし、大切な人や地域との絆を深める【ミニチュア制服 タンティーヌ】
中学校や高校時代の思い出品として、制服を保管されている方もいるのではないでしょうか。
八王子市の「レーザーカッター工房Wark」内にアトリエを構える「ミニチュア制服 タンティーヌ」では、着終わった制服をテディベアへリメイクするサービスを提供しています。
自宅で眠っている制服を再利用するこの取組は、エシカルであるだけでなく、大切な思い出をより身近に感じられると評判です。今回は、そんなリメイクサービスに込められた想いをタンティーヌ代表の土河雅子さんに伺いました。
制服から生まれたテディベア「Uniform Teddy™」

ミニチュアの教室に並べられた「Uniform Teddy™」
土河さんが制服からリメイクした「Uniform Teddy™」は、手のひらに収まるサイズの可愛らしいテディベア。ボールチェーン付きのため、飾るだけでなくカバンに下げて持ち歩くこともできます。
タンティーヌでは元々、着終わった制服を手のひらサイズの制服にリメイクするサービスを行っていました。

サービスを開始したきっかけを話す土河さん
「最初は趣味で人形の洋服を作っていましたが、知り合いのお父様から『娘の制服をミニチュアにリメイクして、結婚式でプレゼントしたい』と相談を受けたことをきっかけに、リメイクサービスを始めることになりました」
自らの特技を生かし、ミニチュア制服のサービスを提供していた土河さん。ある日、テディベアを制作するきっかけとなった依頼が届きます。
「あるお母さんからメールをいただき、『娘の中学の制服をリメイクしてもらいたい。ブラウスに絵の具が付いているけれど、その部分をミニチュアの中に入れることはできますか?』とのお問い合わせでしたが、実は現在闘病中であることを明かしてくださいました。
娘さんは絵を描くのが好きで、中学の時も描き続けていましたが、病気になってしまい、高校生になった今は寝たきりとのことでした。『娘が最後まで絵を描いた証を残したい』とおっしゃっていました」
急いで制作に入った土河さんですが、経過報告の連絡をした際に悲しい知らせが届きます。
「残念なことに完成を目前に、彼女は旅立ってしまいました。間に合わなくて申し訳ない気持ちをお母様に伝えると、『どうか謝らないでください。娘も見ていますので。完成を楽しみにしています』と私を逆に励ましてくださいました」
後日、完成したミニチュア制服を納品したものの、ブレザーのボタンの返却を忘れていた土河さん。「封筒にボタンだけ入れて返送するのは寂しすぎるので、せめてもの慰めになればとテディベアを作って一緒に送ろう」と思いついたそう。
「このサイズのテディベアならミニチュア制服と並べても可愛いらしいし、ミニチュア制服はケースに入っているため触れられないのですが、テディベアなら抱っこもできるからいいんじゃないか」と思い、制作に至ったと話します。
地元の学校の制服からテディベアを作り、地域貢献へ

エシカルを意識した出来事を話す土河さん
日々制服をリメイクするサービスを提供していたものの、「エシカルであるかはそれほど意識していなかった」と話す土河さん。
エシカルを強く意識したきっかけは、テディベア制作と同時期に行われた、TOKYOエシカルのパートナー企業・団体の「まちの駅八王子 CHITOSEYA」での打ち合わせでした。
「まちの駅八王子CHITOSEYA」は、八王子市の地場産業などの紹介を行う施設で、地元の農産物やエシカルに配慮した雑貨が販売されているほか、カフェスペースも併設されています。
「そこで『エシカル』や『地域貢献』という文字が目に飛び込んできて、胸に響きました。そして、以前『学生服専門店 田中屋』さんを訪問したときのことを思い出したんです」
数年前に開催された「八王子ものづくりコンテスト」で、田中屋に制服の余り生地をもらい、ミニチュア制服を制作していた土河さん。その際田中屋の先代社長に、「男子のズボンの裾を採寸したときにカットした端切れは毎回廃棄しているから、いつでも差し上げますよ」と言われたことを思い出します。
テディベア制作と「地域貢献」。土河さんの中で、点と点が繋がります。「八王子の市立中学の制服を扱う田中屋さんの端切れを譲ってもらい、テディベアにして八王子の皆さんへお返ししたら、喜んでもらえるのではないかと考えました」
以降、田中屋から端切れを譲り受け、テディベア制作を続けている土河さん。そこには”ふるさと”に対する土河さんの思いがありました。

ふるさとへの思いを語る土河さん
「父が転勤族で、子どもの頃は国内を転々としていたため、ふるさとを持っていらっしゃる方が羨ましいんです。八王子に来て25年経つのですが、幼少期からずっと住んでいないので、馴染みきれない気がしていて。でも、八王子の子どもだって、成長すれば地元から飛び立つ方もいますよね。そんな方が八王子に帰ってきた時に、『ここが私のふるさとだ』と思える場所があるのはすごくいいこと。
帰ってきたら家族や友達、隣のおばちゃんやおじちゃんといった地域の方がいる。母校の制服を使ったテディベアがあれば、地域の繋がりをより感じてもらえるんじゃないかと思いました」
「Uniform Teddy™」は、テディベアをカバンに付けている学生を目にした地域の方が「私の母校のだ」と気付くことをきっかけに会話が生まれ、地域の繋がりを感じる瞬間が増えることも願い、制作されています。
また、部屋に飾れば家族の会話が増え、絆や感謝の気持ちが深まるきっかけにもなるでしょう。
「今後は、ご自身の手でリメイクを体験していただくお教室をもっと活発化させるとともに、個人的なご依頼にとどまらず、卒業記念品として学校単位で受注を受けたり、退職のお祝い品として企業様からのご依頼もお受けしたりできたらと考えています」
制服の再利用を通じて、親しい人や地域との繋がりを実感する

「レーザーカッター工房 Wark」の一角にアトリエを構える「ミニチュア制服 タンティーヌ」。 店頭に立つ土河さんと、活動を共にする仲間たち。
地域への愛情と、天国から見守ってくれている女の子とお母さんへの想い。そして最初に制服の端切れを譲ってくれた田中屋の亡き先代社長への感謝。
たくさんの想いが重なって生まれた「Uniform Teddy™」は、家族や友人、地域の絆といった”人と人との繋がり”や”命の尊さ”をそっと思い出させてくれる、そんな存在になれたらいいな、そう土河さんは話します。
制服生地を再利用することで、大切な思い出をより慈しみ、地域や人との絆を再確認できる「Uniform Teddy™」。自宅に眠っている制服があるなら、エシカルな選択肢のひとつとしてリメイクを考えてみるのも良いかもしれません。