脱炭素から「ネイチャーポジティブ」へ。株式会社サティスファクトリーのエシカル部門担当者に聞く業界のトレンドとは?

近年は消費者の環境意識の高まりとともに、さまざまな業界でエシカル消費が導入されつつあります。「これからエシカル消費に取り組みたい」と考える企業は、どのような点に配慮し、実践していけば良いのでしょうか。

エシカル消費の実践例としては、「リデュース・リユース・リサイクル」の3Rが有名です。しかし最近は、廃棄物の発生そのものを最小限とすることを含めた循環型経済システム「サーキュラーエコノミー」や、自然環境への悪い影響を抑えるだけでなく生物多様性を含めた自然資本の回復を目指す「ネイチャーポジティブ」などの概念が生まれ、エシカルに対する考え方や取組方法も日々アップデートされています。

そこで今回は、エシカル業界のトレンドや今後の課題について、産業廃棄物の収集・処分・再利用を支援する環境問題解決企業である株式会社サティスファクトリーの上木康太郎さん、梅田弘香さんに、自社の取組事例を交えてお話を伺いました。

99%再生材のごみ袋「FUROSHIKI」を企業に提案

サティスファクトリー 上木康太郎さん(左)、梅田弘香さん(右)

― 日々取り組まれている業務の内容について教えていただけますか。

上木さん:環境コンサルティング事業本部サステナビリティ推進室で、企業のサステナビリティ経営やESG経営をしたい方に向けてコンサルティングを行っています。具体的には企業の環境戦略の立案支援や、消費者から回収した製品をリサイクルする仕組みの実現に向けてお手伝いをしています。

梅田さん:環境コンサルティング事業本部コミュニケーション戦略部に所属し、広報の仕事をしています。文章やデザインを通して社内外への発信や、コミュニケーションに関わる業務、および環境教育を担当しています。

 

― 特に注力しているエシカルプロジェクトについて教えてください。

上木さん:弊社で力を入れているプロジェクトに、廃プラスチックから作られたごみ袋「FUROSHIKI」があります。処分に困っている事業者から回収した廃プラスチックを再資源化した製品で、我々の環境コンサルティングの一環として企業に提案しています。

「FUROSHIKI」の特徴は99%マテリアルリサイクルをしていること。回収した廃プラスチックを焼却することなく、再びごみ袋として再生しているため、環境負荷が低減されるのが強みです。その成果として、CO2の削減値を数値化している点に価値を感じて導入してもらうケースが多いです。

廃プラスチックから作られたごみ袋「FUROSHIKI」

梅田さん:ごみ袋でCO2削減値を算出している会社はあまりないので、お客様から「数値が出るのであればWEBサイトに発信材料として載せられるので使いたい」と言ってもらえることもあります。

実際に「再生材」と表記のある製品の中には、一度市場に流通した新品材が再生材として扱われたりと、定義の曖昧さもあるんです。その点「FUROSHIKI」は、本当に捨てられるはずだった廃棄物から作られているので、CO2削減値が算出しやすいのです。

また、「FUROSHIKI」は地球温暖化や自然汚染の抑制を目指したエシカル製品なだけではなく、厚手で破れにくい特徴もあるので、飲食店経営をされている方からは「生ごみや割り箸を捨てる際はごみ袋を2枚重ねにしていたが、これなら1枚で使える」と好評いただくこともあります。

 

コンサルティングや発信を通して人々の意識を変えていく

 

―「FUROSHIKI」という商品名はユニークですね。

梅田さん:このごみ袋の名前は社内で公募したものなんです。応募者の中で、学生時代から剣道をしていて、道着などを包む道具として風呂敷を使っていた社員がいました。その大切なものを包む風呂敷からアイデアを得て、「FUROSHIKI」に入れるものは「ごみ」だけれど、リサイクルすればごみではなく「資源」になる。「ごみも大事な資源である」という意味を込めて名付けられました。

 

―ごみ袋に「FUROSHIKI」と名付けることで、「ごみも大切な資源である」と提案する。当たり前を見直し、使う人の意識を変えるコンセプトは素晴らしいものだと思います。上木さん、梅田さんも日々の業務の中で、人々の意識を変える重要性を感じていますか。

上木さん:コンサルではお客様の意識を変えるという視点が必要なので、日々どうすれば変えられるか意識しています。私の体感ですが、お金を払ってまで環境経営をしようとする企業は現在1%くらいしかいない。そこから10%、20%と増やしていくことが我々の使命だと思っています。

梅田さん:私たちはさまざまな企業に廃棄物回収をアレンジするので、「回収後にリサイクルをしてほしい」という方もいれば、「回収だけでいい。リサイクルは必要ない」という方もいらっしゃいます。

ですが、ただリサイクルの推進を提案するだけでなく、廃棄物に付加価値をつけるソリューションを持つ弊社だからこそ、積極的に「こういったアップサイクルもできます」と事例を発信すると、「うちでもできないか」とお声がけいただくケースも増えています。意識を変えるにはこうした発信も大事だと実感しています。取引先の企業や弊社のWEBサイトを見てくださる方に対して、発信を通して意識を変える機会を少しでも提供できればと思っています。

収集された廃棄物の一例

使用済み製品の回収とネイチャーポジティブがトレンドに

 

―上木さん、梅田さんから見たエシカル業界のトレンドについて教えてください。

上木さん:サーキュラーエコノミー業界では、消費者から製品を回収する企業が増えています。スーパーで肉や魚のトレイを回収するように、自分たちが売ったものを、消費者が使い終わったら戻してもらうという取組です。

梅田さん:そういった取組で大事なのが、集めた後どうするか。集めて誰も使わない商品に変えても意味がないので、需要のあるものに作り変えなければなりません。

上木さん:環境コンサル業界では、ネイチャーポジティブが流行っているように感じます。イメージとしては「自然資本を豊かにしていこう」というアクションです。

梅田さん:木とか石炭とか、自然にあるものを人間はたくさん使っていますよね。例えば、今プラスチックの原料が枯渇してきているのは、天然資源の使いすぎが原因です。人間活動や事業活動の根底にあるのが自然で、それを再興する経営をしましょうという考え方です。

上木さん:今までは「脱炭素」が言われていましたが、脱炭素と並行してネイチャーポジティブに使命を感じています。脱炭素は地域性をあまり重視しませんが、ネイチャーポジティブは地域性を見るという違いがあります。

具体的に言うと、脱炭素は「全地球でこれだけ二酸化炭素を出したら、これだけ温度が上がりますよ」というのを考えて、「世界中の皆でCO2を減らしていきましょうね」という話です。

一方でネイチャーポジティブは、「このエリアでこれだけCO2を出したら、これだけ悪影響があるよね」という感じで。CO2だけでなく木を伐採した場合とか、環境にダメージを与える行動を取ったときに、地域単位でどんな影響を与えるのかを見ていく。そういったふうに考え方が変わってきているのはトレンドとしてあると思います。

リデュースを促進しながら環境問題の根本的な解決を目指す

―エシカル業界全体で感じる課題や今後の目標はありますか。

梅田さん:環境のために行動を起こすのは素晴らしいことですが、「ボランティアになっちゃダメだね」という話はよくします。弊社の事業はすべて環境のためにやっていることですが、それぞれを収益化して長く続けています。表面的な良いことだけではなく、ビジネスとして経済性を両立しなければ、持続・拡大することは難しいでしょう。

その手段を挙げるならば、例えば道にごみが落ちているとして、ごみを拾う以外の選択肢も考えます。「そもそもごみを捨てさせないためにはどうしたらいいか」といった問題を根本から解決するような新しい仕組みをつくりだすことで、商品やサービスの社会的な価値が上がります。

上木さん:つまり「本業とサステナビリティをいかに融合させるか」という点に注目しなければなりません。現状ではサステナビリティをCSR(企業が果たすべき社会的責任)として取り組む企業が多いように感じますが、そこからもう一歩踏み込んで、最初からサステナビリティを備えた状態で事業を展開していく企業を増やしたいと思っています。

サーキュラーエコノミーというと、リサイクルがものすごく取り沙汰されていますが、3Rの「リデュース・リユース・リサイクル」の中で1番優先度が高いのはリデュースです。しかし、「ものを減らす」という思考で取り組んでいる企業が現状とても少ないのは課題だと思います。

梅田さん:サーキュラーエコノミーの考え方のひとつである、「必要な分だけ食べる、使う分だけ買う、身につける」ことがエシカルにも繋がると思います。リデュースの「ものを減らす」や、サーキュラーエコノミーの「使う分だけ」という考え方はまだまだ浸透しきっていないので、広めていかなければなりませんね。

上木さん:リサイクル業界では、地域内で資源が循環するのが理想ですが、リサイクルができるものとできないものでエリアによって差があります。例えば四国のものを北海道まで、CO2を排出しながら輸送してリサイクルするのが地球に優しいのかといった議論もあり、このような地域ごとの差を埋めていくのが課題です。

 

― TOKYOエシカルを通じて伝えたいことや想いはありますか。

梅田さん:エシカルの概念は人によって変わるものだと思います。人のためだったり、動物のためだったり。エシカルと言っても作り手や想いを持つ人によって色々な概念があるということが、TOKYOエシカルを通して社会に伝わると思うと楽しみです。私たちも認識の多様性を尊重しながら、今後発信していけたらと思っています。

廃棄物の業界にいると、あらゆる製品において「分別しやすさ」や「リサイクルできるかどうか」が気になります。例えばバイオマスプラスチックは、100%バイオマス由来の単一素材もあれば、石油由来の原料と混ざった複合素材もあります。実は後者の場合、従来のプラスチックと同じようにリサイクルすることは難しくなるんです。

同じようにエシカルな製品を作る際にも、使われた後の分別やリサイクルのしやすさを鑑みた素材選び・開発や商品設計をすることが、エシカルに循環する社会を作る軸になると思います。私たちも広い概念で物事を見て、人と環境に本当に良いものを作っていきたいですし、世の中にエシカルで循環する製品が当たり前にある社会を創っていきたいです。

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