「もったいない」を「おいしい」へ! ASTRA FOOD PLANが過熱蒸煎機でエシカルな食の循環

フードロスの削減への関心が高まる一方、私たちの目に触れないところで膨大な量の食材が廃棄されている「かくれフードロス」があることをご存じでしょうか。

その課題解決に向けて最先端の技術開発や商品開発を行っているのが、2020年に創業したスタートアップ企業のASTRA FOOD PLAN株式会社です。

同社では100℃以上の水蒸気である「過熱水蒸気」を熱風と併用することで、食品を乾燥する「過熱蒸煎機」の開発・販売と、野菜などの食品残渣(ざんさ)をアップサイクルした食品パウダー「ぐるりこ」の製造・販売を手がけています。

現場ではどのような工夫をして技術開発や課題解決に向けた取組を進めているのでしょうか。今回は埼玉県富士見市にある同社の本社を訪問し、代表取締役の加納 千裕(かのう ちひろ)さんに取組のポイントや未来のビジョンを伺いました。 

見過ごされてきた「かくれフードロス」2,000万トンの実態

加納さんはフードロスを取り巻く社会状況について、「全体としては460万トンまで減ってきているとされますが、私自身は減っている感覚がわかないんです」とその状況を見つめています。
「あるメーカーさんでは、1つの工場で1日50トン以上ものキャベツや白菜の芯が廃棄されていて、そのコストは年間数億円に上るそうです」と語るように、事業者では、一般家庭で起こるフードロスよりも膨大な量と廃棄コストが生じている現状や課題があります。

工場で発生する食品残渣などは公的な統計にカウントされておらず、加納さんはその量を「一般的なフードロスは約460万トンあるとされていますが、工場などから出るものはその約4倍の2000万トンは存在すると見ています」と話します。

加納さんや同社に転機が訪れたのは、ある飲食チェーン店の食品工場で目にした玉ねぎの端材でした。加納さんは「その多くが食べられる部分だったんです」と衝撃を受けたことを振り返ります。
この見過ごされた課題に対して加納さんは「かくれフードロス」と名付け、本格的な解決に向けたチャレンジをはじめました。

10秒で食品をアップサイクルする「過熱蒸煎機」

同社では一連の課題解決のために「過熱蒸煎機」の販売や改良に向けた研究開発を進めています。本装置では前述の通り、過熱水蒸気を用いて食品を乾燥・粉末化することができます。
その最大の特徴は処理能力です。約400℃の高温で食品を乾燥・殺菌することにより、これまで24時間かかっていた乾燥工程を約10秒へ短縮することに成功。そして、素材の風味も活かしたパウダーへ仕上げることもできたといいます。

今回の取材では、実際に過熱蒸煎機を見学させていただきました。「投入ホッパーと呼ばれる部分(画像中央の投入口)へ材料を入れると処理が開始されます。最近では、リンゴをジュースにする際に出る搾りかすから、食品以外も含めた用途展開を試しているんです」と、コンパクトな設計でありながら、高い技術力と幅広い活用方法を持つ装置の仕組みなどを説明してくれました。

また、本装置でアップサイクルした食品パウダーは「ぐるりこ」という独自ブランドで販売。加納さんは「食材の風味や栄養価を保ちながら乾燥できる、新しい食品加工技術として世の中に届けたいと思ったのが事業のきっかけです」と振り返ります。

現在では、たまねぎを中心に、お客様に向けて商品を使ったレシピを公開することで風味や活用方法の魅力も伝えていることが特徴です。

異なるニーズをつなぐビジネスモデルの構築

同社では革新的な技術を開発した一方、事業化の過程で「素晴らしい機械ができたので普及すると思ったんですが、なかなか売れなくて…」と、大きな壁に直面したといいます。

その理由は、市場にあるニーズとのミスマッチでした。「食品残渣に困っていたり、廃棄コストをなくしたいという企業のニーズは非常にあるのですが、おいしいパウダーを製造したいというニーズはあまりなかったんです」と加納さんは分析します。

そこで「取引先工場などに過熱蒸煎機を設置してもらい、残渣がパウダーへアップサイクルされたあと自社(ASTRA FOOD PLAN)で買い取る」という独自のビジネスモデルを構築。現場へ設置する工夫として、装置をサイズ別に開発することで、中小企業の工場などでも導入可能にしています。

さらに重要なポイントは、装置の導入だけでなく技術支援や食品パウダーの販路確保まで一貫した戦略提供です。加納さんは「食品パウダーの使い道や売り先を併せて提案することで、導入に至ることもあると思います」と考えるように、ビジネス全体の設計が鍵になっているといえるでしょう。

アップサイクルを社会へ広めるための仕組みづくりとは

現在、同社はアップサイクル食品を社会に広めるために、国・企業・研究機関が一体となって取組を進める「フードテック官民協議会 アップサイクルフードワーキングチーム」を、農林水産省内に他の企業と共同設立しました。

今後はアップサイクルフードの認証制度を作ることを中心に活動予定です。また、廃棄物処理法の改正に向けた政策提言など幅広い取組を進めていくといいます。

ほかにも、「一般の方にもアップサイクルフードの魅力を知ってもらえるようなフェスも開催したいですね」とビジョンを語る加納さん。その広い視点から、技術開発・制度設計・普及啓発といった多角的なアプローチでアップサイクルを「日常」にする社会を目指していることが伺えます。

かくれフードロスを減らしながら、エシカルな循環を日常の風景へ

加納さんは、少し未来を見つめて「5年後・10年後にはアップサイクルが当たり前になる社会にしたいですね。現在の食品製造はフードロスを前提とした設計になってしまっているのですが、それを各事業者がロスを減らすだけでなく、アップサイクルを通じてもう一度食品に戻すことが当たり前になっている世界を目指しています」と「かくれフードロス」の削減に向けたビジョンを描きます。

最後に「家庭の食卓にも『ぐるりこ』やアップサイクルされた食品が並んでいくような未来になったらいいですね」ともお話しされました。その姿から、同社の事業活動や取組が広まった先にある「アップサイクル社会」というエシカルな循環にあふれる社会の日常や、この先も同社や加納さんのチャレンジが続いていくこともうかがえました。

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