エフピコが35年続ける「トレーtoトレー」|食品トレーを捨てずに戻す選択が、エシカルな循環を生む
スーパーマーケットの出入口に設置されている食品トレーの回収ボックス。目にしたことがあっても「どのようにリサイクルされているの?」と感じている方も多いのではないでしょうか。
日本には使用済みの食品トレーを回収し、再び食品トレーとして生まれ変わらせる「水平リサイクル」を用いて「トレーtoトレー」という取組を35年以上続けている企業があります。
それが、食品容器メーカーの株式会社エフピコです。回収ボックスに集まったトレーは、どのような工程を経て再び店頭に戻ってくるのでしょうか。
今回は、同社サステナビリティ推進室 サステナビリティ企画推進課の若林 大介(わかばやし だいすけ)さんに、その仕組みやこれまで続けてきた理由、そして私たち消費者ができることについてお話を伺いました。
企業存続のために始めたリサイクル|6店舗からの挑戦
以前の業界では、食品トレーを製造する際にフロンガスを用いていました。
しかし、1980年代後半になると、二酸化炭素よりも温室効果が高く、オゾン層の破壊や地球温暖化の一因とされるフロンガスの使用規制を目的とした「モントリオール議定書」が採択され、米国の大手外食チェーンで消費者不買運動がおこりました。
当時について、若林さんは「当社はこの不買運動は、早晩日本でも発生し、ようやく軌道に乗ったトレー製造の事業が失われかねない危機的な状況になるのではないかと考えたようです」と振り返ります。
(出典:環境省|モントリオール議定書)
続けて「それゆえ、作ったものに最後まで責任を持とうという考え方から、食品トレーの回収・リサイクルを始めました」と取組のきっかけを語る若林さん。
その後、同社では1990年よりリサイクル事業を開始しました。6店舗のスーパーマーケットに回収ボックスを設置することからはじまり、現在では全国1万1000カ所から回収するまで広がっています。
自社物流で成立させる「トレーtoトレー」の循環
若林さんによると「トレーtoトレー」は、食品トレーの回収にあたり自社の物流網を活かした取組であることが特徴とのこと。この物流網は、全国9か所の配送センターから、半径100㎞の範囲で日本の全人口の85%をカバーするといいます。
スーパーマーケットや包装資材の問屋に新しいトレーを届けた帰りのトラックに、使用済みトレーを載せて工場に運んでいます。その後、場内で選別・洗浄されたあと、ペレット(プラスチックの粒状原料)に加工され、およそ1か月後に再び店頭へ戻っていきます。
この循環は消費者・スーパー・配送業者・エフピコの4社によって支えられています。若林さんは「自宅で洗って持ってきてくださる消費者の方がいるからこそ、すべてが始まるんです」と協力の重要性を説きます。
そして、循環を価値あるものにするのが同社の技術。若林さんは「リサイクルするとコストが高くなると思われがちですが、新品のトレーとリサイクルトレーを並べても、実際の見た目や価格は同じになるんです」と話します。
そのポイントは、回収したトレーを新たなトレーの原材料として活用していることです。これにより、資源を有効活用できると同時に、原油価格が変動する現代でも、価格の安定化にもつなげています。
回収率30%の現状|消費者の協力が循環を動かす
現在、食品トレーの回収率は30%程度だといいます。若林さんは「トレーがもっと回収されたら、資源循環としてさらに有利になりますね」と、伸びしろがある現状を前向きに捉えています。
回収率が上がらない理由の一つを、「都内の方は、自宅からスーパーマーケットに直接行く回数が少ない現状があると思います。仕事帰りに寄るとしても、朝からトレーを持参するのは難しいですよね。一方で、車社会の地方では車内にトレーを置いておけるので、持参しやすい環境があるとみています」と、消費者の生活スタイルから分析していました。
そうした中でも、若林さんによると、トレーの回収に協力する方たちは増えているといいます。その後押しとなっているのが「エコマーク」の表示です。リサイクルされたトレーにはこのマークが入っており、自分が戻したトレーが循環の一部になっていることが目に見える形で示されています。
さらに、スーパーマーケットを起点にした「ストアtoストア」という取組も広まっています。若林さんは「スーパーマーケットで回収したトレーを、また同じお店に戻すという地域で完結する循環の輪を紡いでいきたいですね」と語ります。現在、この取組には全国で100社以上・数千店舗がこの宣言に賛同しているとのことです。
環境効果だけではない、続けてきたから得られた価値
長年リサイクル事業に取り組んできたエフピコでは、思いがけない場面で取組の価値を問われることになりました。それがコロナ禍です。
若林さんは「コロナ禍の前後で紙ストローの導入やレジ袋有料化などさまざまな変化がありましたが、次はプラスチックトレーがなくなるのではないかと言われていたんです」と当時を振り返ります。しかし状況は一変し「プラスチックトレーは洗えて衛生的だから、必要不可欠なものだと評価が変わったんです」と当時の社会状況を見つめていました。
そして、同社ではリサイクルなどの取組を伝える方法として、一般の方を対象とした工場見学を実施しています。リサイクル事業を始めた1990年より行っており、累計来場者は50万人を突破したといいます。若林さんは「授業を受けた学生が、エフピコで働きたいと言ってきてくれたときは本当にうれしかったですね」と笑顔で語っていました。
水平リサイクルの未来と私たちにできること
リサイクルを取り巻く状況が変化する一方で、その循環を支えているのは、トレーを洗って回収ボックスに持参している消費者です。「リサイクルのルールに従いつつ、無理をせずに続けていただければ」と、若林さんは消費者の歩み寄りに期待を寄せます。
最後に、若林さんはこう締めくくりました。「使用済みトレーを回収ボックスに持ってきていただいたその瞬間から、資源が生まれていくわけですね。特に、天然資源に限りがある日本では、未来に向けて大きな意味を持つと思います。リサイクルをすることで日本の未来が少し変わっていくと思いますので、ぜひご協力いただければと思います」
スーパーマーケットの出入口にある回収ボックスへ、トレーを戻す。この小さな行動が、循環の起点になっているといえるでしょう。
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