服が川に溢れかえる現状。鎌田安里紗と末吉里花が語る、ファッションをエシカルに楽しむために今知るべきこと

TOKYOエシカルでも度々取り上げてきた、ファッションとサステナビリティの問題。多くの課題に向き合う作り手・届け手側と、洋服との付き合い方を模索する消費者側双方の視点からディスカッションを行った『TOKYOエシカル座談会#2』では、ファッション産業という「大きくて」「複雑」な業界が環境に与えている負荷の大きさや、それを改善していくために企業と消費者双方ができるアクションについてのアイデアが飛び交いました。

ファッション業界、そして洋服を日々消費する私たちが向き合うべき課題はそれらにとどまりません。サステナブルファッションが叫ばれるようになっている一方で、人々が洋服を買い替える量と頻度は増加し、それを支える低価格化の背後には、過酷な労働環境が存在します。

2023年113日(金)~6日(月)に開催されたイベント「TOKYO FASHON CROSSING」では、「次世代へ継承するためのサステナブル」と題して、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花さんと一般社団法人unisteps共同代表理事を務める鎌田安里紗さんによるトークセッションが行われました。トークでは、あまりにも過剰になっている生産と消費が引き起こしている深刻な状況と、そうした事態にも前向きに取り組む企業や団体の活動の紹介を通して、エシカル消費のためのヒントが提示されました。イベントの模様の一部をレポートします。

カンボジアの縫製業労働者たちから託されたメッセージ

有名ファッションブランドの製品生産を担う国々の工場を視察するスタディツアーを定期的に行っているという鎌田さん。現地の工場労働者たちとの交流からは、切実な声が上がっていたと言います。

鎌田安里紗さん(右)

「ファッションの持続可能な生産プロセスを実現するためには、人々が劣悪な環境での労働を強いられていないか、適切な対価を得られているか、といったことに配慮する必要があります。スタディツアーで訪れたカンボジアの縫製工場では、生活に必要な額に満たない給料しか支払われていない10〜20代の女性たちに出会いました。

そうした状況に対して、カンボジアの縫製業労働者たちは給与引き上げや労働条件の改善などを求めるストライキを行ってきたのですが、そのストライキへの参加を理由に仕事を失ってしまった人たちも多く存在することを知りました。

彼女たちからは、消費者である私たちからブランド側にこの状況を伝えてくれないか、と言われました。現場で働く彼女らが、自ら発注元のブランドに声を届けることはやはり難しいのです。「お客様の声は、大切にされるから」という彼女たちの話を聞いて、労働者の声は無視される現状と、消費者は力を持っているということを学びました。そのブランドに対しては、私たちもそのブランドのファンだからこそ安心して買い物ができるようにという思いを持って、労働者たちの声を企業に届けました。

日本で販売されている洋服の98%以上が国外生産で、国内で作れているものはわずか1.8%。遠い国で起こっていることを把握するのは簡単ではありませんが、課題を解決していくためにはまず現状を知ることから始めていかなくてはならないと思います」(鎌田)

「作りすぎ」と「買いすぎ」が引き起こしている、途上国への悪影響

労働環境の話に続いて鎌田さんが指摘したのは、加速し続けるファッションの消費スピードについてです。2000年からの15年間で世界の洋服の生産量は約2倍になった一方で、人々が洋服を所有する期間は約半分になったといいます。そうした過剰生産・消費のサイクルが、リユース、リサイクルの仕組みをもパンクさせてしまっている現状を伝えます。

「近年のファッション生産がいかに過剰な状態にあるかを知るには、洋服の平均価格の変化と重ねて考えるとイメージしやすいです。日本だと1990年~2019年の間に洋服の平均価格は約半分になりました。皆さんも『お洋服安いなぁ』って思いませんか?私は高校生のころからバイト代でお洋服を買いだしたのですが、ちょうどファストファッションが日本に入ってきたタイミングで、安くトレンドのお洋服が買えるようになり嬉しかったのを覚えています。でも、安くて使えそうと思って買っても、5回くらい着ると飽きてきちゃって…。結果、安かったからいいか、と簡単に手放してしまう。こういう意識の変化が、洋服の所有期間を短くしている一因になっていると思います。

今年は8月にケニアに行ってきたのですが、今世界中からたくさんの古着がケニアやガーナ、チリといった国々に寄付やリユースの目的で輸出されています。問題はとにかくその量が多すぎるということです。国内で利用できる量を優に超えてしまっている状況なのです。

ケニアでは、現地で使いきれなかった洋服が川になだれ込んでしまっています。あるいは海に流れるものもありますし、埋立地にそのまま埋められるものもあります。生産量が増えて、消費サイクルが速くなったことで、着られなくなった大量の服がどこか別の国に押し付けられ、その地域の環境に悪影響を及ぼしているのです。また、古着が大量に流通してしまうことで、現地のファッション産業も大きなダメージを受けてしまっています。

こうした状況をうけて、古着の輸入を法律で禁止する国も出てきています。例えば、ルワンダでは国内の産業や雇用、そして環境を守るために古着の輸入禁止を発表しています。こうした動きが進み、着られなくなった洋服の行き場がなくなっていくと、自国内で回収し再利用していくサイクルを作ることが重要になってくるはずです」(鎌田)

フェアトレードやリペアに本気で取り組むブランドたち

鎌田さんが語ったような深刻な問題が山積しているなか、解決に向けてどんなアクションが必要なのでしょうか。末吉さんは次のように話します。

末吉里花さん

「すべての製品の背景がしっかり消費者に伝わり、透明性が担保されている社会にしていくことがなにより重要です。

バングラディシュとネパールにある、フェアトレードのパイオニア的ブランド『ピープルツリー』の洋服を作っている生産者団体を訪れたことがあるのですが、ここでは、生産者の方たちが生活を改善しながら自立を目指す仕組みが確立されていました。バングラディシュやネパールのような国では、社会的、文化的な慣習により収入の機会を持てなかった女性が多いこともあり、『ピープルツリー』のように女性の働き手を積極的に雇用している場はとても貴重です。彼女たちに話を聞くと『仕事があり、収入があるおかげで子どもたちを学校に行かせることができる』と話してくださいました。こういった背景やストーリーを知っていれば、大量生産された洋服よりは少し高いかもしれないフェアトレードの洋服も、大切に長く着続けようという気持ちになりますし、愛情が生まれますよね。

また、スウェーデンへ視察に行った際には、エシカル消費が生活に広く浸透していることに驚きました。例えば、コンビニに置かれている商品の多くは、生産の過程で環境や生産者、動物などに配慮されたことがわかる認証ラベルが貼られていて、価格も認証の無い商品と変わらないものもたくさんありました。そのほかにも、『Nudi Jeans』というデニムのブランドでは、自社製のデニムであれば生涯無料でリペアサービスを提供し、サイズアウトして着られなくなったデニムを店頭で回収して手入れをしたのちに、リユース品として再販売する、という循環の仕組みも確立されていました。そのほかにも、自治体主導で不用品の回収とシェアの場を提供している事例などもありました。

リペアやリユースの文化がヨーロッパでは進んでいて、リサイクルだけでなく、修理して長く使い続けたり、同じものを繰り返し使うことに価値を感じられるサービスが広がってきています。ブランド側が使い捨てではない商品の価値を提示することで、消費者から支持してもらえるのです」(末吉)

私たちがまずすべきアクションは「声を届ける」こと

イベントの締めくくりには、10年、20年後の未来もファッションを楽しみ続けられるように、個人の消費者が今できることはなにか、ということについて、末吉さんと鎌田さんがそれぞれの考えを述べました。

「これまで、私たちは生活者、消費者としての権利をあまりにも生かしてきませんでした。自分たちが求めているものについて、きちんとお店や企業、ブランドに声を届けること。そうすることで仕組みを変えていく力の一端を担うことができるのです。エシカルなアクションが生活を豊かにすると考えている人が多数派な国が増えてきている一方で、日本は生活の質を脅かすものだと考える人が過半数いるという統計が出ています。社会課題の解決を目指すことは、それによって自分たちの生活も豊かになるのだということをもっと多くの人に知ってもらって、エシカル消費によってワクワクできるような生活を実現していきたいですね」(末吉)

「そうですね。自分が選ぶものにより納得感を持てるような社会になっていくべきだと思います。自分の価値観に合ったものが一目でわかりやすく判別できるような仕組みが浸透すれば、より安心して楽しく買い物できると思うんです。グローバルなサプライチェーンの上でモノづくりができる社会は非常に便利ですが、その『便利さ』を次のステップにアップデートしていく必要があります。末吉さんの意見と同じく、まずは好きなお店やブランドに声を届けること。自分にとっても社会にとってもポジティブな行動なのだと思って、ぜひトライしてみてほしいと思います」(鎌田)

「TOKYO FASHON CROSSING」公式サイト

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