アリサンパーク、ケイ・ベリスさんに聞くサステナブルな食生活のためのヒント

オーガニック・ベジタリアン食材のブランド「アリサン」が手がける阿里山カフェの2号店「アリサンパーク」が、昨年、代々木公園の向かいにオープンしました。オーガニックスーパーには必ずと言ってよいほど並んでいるアリサンの食材は、食の安心、安全に配慮したい消費者から厚い信頼を寄せられています。

アリサンパークのディレクターであるケイ・ベリスさんに、アリサンパークのコンセプトや取組、そしてエシカルな考えが根付いた家庭環境で育った彼女自身の生い立ちについて、お話を伺いました。

店内は、ベジタリアンメニューが楽しめるカフェスペースと、約120種類のアリサンオリジナル商品が並ぶショップスペースに分かれています。人気商品のピーナッツバターやグラノラを始め、すべての商品に生産者さんの顔が浮かぶのだとケイさんは語ります。

「私の両親がアリサンをスタートした35年前、日本ではオーガニックの食材がまだあまり手に入りませんでした。最初は自分たちが食べるためにアメリカからピタパンやオートミール、ピーナッツバターなどを持ってきていたのですが、周りの友人たちにもシェアしているうちに輪が広がっていって、会社としてやっていくことになったそうです。

ピーナッツバターは両親が最初に日本に持ってきた商品の一つです。
一般的なものは砂糖や乳化剤などが添加されていますが、アリサンのピーナッツバターは有機ピーナッツだけを使っていて、塩すら使っていません」

アリサンの定番商品、『有機ピーナッツバタースムース』

同じく定番商品のグラノラはオーソドックスなものだけでなく材料にアレンジを加えたものなどを各種取り揃えている

アリサンパークのカフェで提供しているメニューは、基本的にはベジタリアンやヴィーガン向けのものですが、ケイさんいわく、それは「単なるオプション」なのだとか。伝えたいのは、スタイルを勧めることではなく「食事を楽しむ」ということなのだと強調します。

「私自身はストイックなベジタリアンではないんです。もちろん健康のことや環境のことを考えて野菜中心の食生活をしていますが、友達との食事ではお肉を食べることもたまにあります。ベジタリアンの家庭に育ちましたが、両親は決して私に同様の食生活を強要することはありませんでした。知識は与えてくれましたが、決断は私たちに任せてくれたんです。

人それぞれ自分の信じることや感じ方は違うので、私たちはお客さまにも選択肢の一つとして私たちの商品を提供できればと思っています。楽しく食事できないともったいないですから」

阿里山カフェ一号店のレシピをそのまま引き継いでいるお豆と季節野菜のカレー。アリサンのひよこ豆やスパイスが使われています

食べ物を分かち合うことは愛を分かち合うこと

ケイさんの両親、アメリカ人のジャックさんと台湾人のフェイさんがアリサンを創業したのは1988年のこと。埼玉にあるアリサンの本社は3階が自宅になっており、ケイさんはアリサンというブランドと向き合う両親やスタッフの背中を見て育ってきたのだとか。

そんな彼女がアリサンの仕事を手伝うようになったのは、ある思いが芽生えたからだと言います。

「夏休みになると、両親は兄と私を連れてアメリカを始め世界中の生産者さんを訪ねる旅に出るのです。原料の製法や彼らの考え方など、さまざまなことを学びました。両親にとっては生産者さんも家族の一員で、お互いの家に泊まり合うことも当たり前でした。大人になってから、他の家族がそうでないことを知って驚きました(笑)。これが私たちだけの特別な体験なのだとしたら、もっとこのストーリーを広めたいと思うようになったのです」

ケイさんが最初に取り組んだことは、パッケージデザインのリニューアルでした。商品が作られ、消費者の手に届くまでのストーリーが伝わるようなものにしたいという思いがそこにはあったのだそう。そして、より多くの人にアリサンの魅力を伝えたいと、お兄さんのジェイさんとともにオープンさせたのが、アリサンパークです。

「アリサンパークは、カフェとショップだけじゃないコミュニティの拠点として考えています。例えば、2階のスペースでは、お料理教室や、ヘルスケア、ウェルネス、サステナビリティをテーマにしたイベントなどを開催しています。また、定期的に周辺のゴミ拾いをしていて、参加者も少しずつ増えてきています。私たちも彼らに会えるのを毎回楽しみにしているんです。

食べ物は誰もが必要とするものであり、地域ごとに独自の文化を持っています。だからこそ、『人を繋いでくれる』のだと両親はいつも言っていました。彼らの活動はまさにそれを体現していたように思います。父の言葉の中で私も気に入っているのが『To Share food with another is to share love(食べ物を分かち合うことは愛を分かち合うこと)』です。食べ物の持つパワーがどれほど大きいかを私も常に実感しています」

「少しだけ工夫する」を続けていくためのヒントと出会える場所

アリサンパークでは、食事の提供や商品の販売以外に、循環を生み出すための取組もお客さんを巻き込んで行っています。

「『LFCコンポスト』という企業とパートナーシップを結び、都内の人たちでも気軽にコンポストを生活に取り入れることができるような取組を進めています。コンポストで作った堆肥の使い道に困っている人が多い、という話を聞いたことがきっかけでした。

皆さんが作って持て余している堆肥を私たちが回収して、埼玉の本社で使わせてもらうという仕組みです。アリサンパークでは『LFCコンポストセット』も販売していて、生ごみを捨てないコンポスト生活に興味のある方たちのサポートができればと思っています」

LFCコンポストセット

アリサンパーク屋上にあるコンポスト

お店の外には、誰でも持って帰ってもらえるようにと、カフェで提供しているレモネードの瓶を洗浄して置いています。

「このドリンクはドイツのメーカーのもので、見た目もおしゃれで可愛いです。ドイツではこの会社が瓶の回収をしてくれるシステムもあるのですが、日本はサービス外なので代わりにオイルやハンドソープ用の容器として使ってもらえるように、ディスペンサーポンプなども店頭で用意しています」

看板やテーブルなども、輸入の際に商品の荷崩れを防ぐパレットと呼ばれる木製の板をアップサイクルして自作したものなのだとか

サステナビリティという言葉がマジックワードのように叫ばれている昨今。ケイさんは、この風潮を一過性のものではなく、文化として根付かせていくことが重要だと話します。

「持続的で循環型のライフスタイルは、私たちの育った環境では当たり前のことでした。だからこそ、私たちから伝えられることがあるのではないかと思っています。

例えば、最近では多くの人がエコバッグを持つようになりましたよね。もちろんそれは大切なことです。しかし、どのような消費のあり方が理想なのか、という考え方を自分のなかに持つことがまずあるべき姿だと思っています。エコバッグを持つことは目的ではなく手段なのだという認識が十分に伝わっているかというと、まだまだなのかなと思うので、そんなことを考えられるコミュニティの場をこれからも提供していきたいです。無理せず、少しだけ工夫することを続けていくことで、きっと良い方向に向かっていけると思います」

誰かに強要することなく、あくまで自分たちが楽しんで、自然体に取り組むこと。そして、それをいつしか当たり前にしていく。アリサンパークにはそんなエシカル消費へのヒントが散りばめられています。

公式サイト:https://alishanpark.com/
Instagram:https://www.instagram.com/alishanpark/

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