未活用素材を使って最高賞を受賞 蔵前発の再生型クラフトジンとは?

全国各地にクラフトジンの蒸留所がオープンするなど、クラフトジンのブームはますます広がりを見せています。そんななか、廃棄されるはずだった未活用素材を活用したクラフトジンで国際的に高い評価を得ているのが、蔵前に本社を構えるエシカル・スピリッツ株式会社です。

2020年に設立された同社は、まず全国の酒蔵と提携し、酒造りの工程で「搾りかす」として廃棄されてきた酒粕を活用したクラフトジン「LAST」の商品開発を手掛けました。その後、酒粕に限らず、ドーナツチェーンの「クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン」や、ドリンクメーカーの「サントリー」など、さまざまな企業とのコラボレートも実現。ドーナツのロス生地や、ワインの搾りかすといった、捨てられるはずの素材をジンの香り付けに生かしています。

今回は、2021年に本社に併設してオープンした「東京リバーサイド蒸溜所」を訪れ、同社COOの小野力さんに、エシカルなジンの生産を始めた経緯や、今後の展望について聞きました。

エシカル・スピリッツ株式会社 COO 小野力

酒蔵で廃棄されるはずだった酒粕をスピリッツに生まれ変わらせるというユニークなアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか? そこには、コロナ禍で目の当たりにした食材ロスの問題があったのだと言います。

「外出自粛の影響で、食材余り、食材廃棄に関するニュースが連日のように流れるなか、創業メンバーで話し合って生まれた企業理念が、『Starring the hidden gem (隠れた才能をステージへ)』でした。廃棄される素材や、見過ごされている素材の隠れた魅力を引き出そうという思いが込められています」

余った酒粕の活用が起点となったのは、同社代表の山本祐也さんが日本酒店を経営するなかで、日本酒の製造工程で産出される酒粕の多くが、やむなく捨てられている現状を知ったからでした。

酒造りの工程では、使用した米のうち30-35%が酒粕になると言われています。大手酒造会社では、酒粕をスーパーに流通させたり、畜産の肥料にしたりと活用できている面もありますが、小野さんは、「こだわりある酒造りをされている中小の酒蔵ほど、酒粕の管理にまでは手が回らない。仕方なく廃棄されている酒粕は、まだたくさんある」と指摘します。そこで着目したのが、クラフトジンでした。

「酒粕のままだとすぐに腐ってしまいますが、蒸留酒にすれば半永久的に保管することができます。さらに、ジンは酒粕や小麦など様々な素材を原料にでき、香り付けの可能性も無限です。自由度が高く多様な素材の魅力を引き出すことができるという特徴は、私たちが掲げる理念と非常に相性が良かったのです」

ウイスキーの母国イギリスでは、2018年にジンの市場規模がウイスキーの市場規模を金額ベースで追い抜くなど、世界的なジンブームが挑戦を後押ししました。現在は、鳥取県の千代むすび酒造など全国の酒蔵と提携し、買い取った酒粕からできた粕取り焼酎を、蔵前の蒸留所でボタニカル素材と共に蒸留する形で製造を続けています。

酒粕ベースのエシカルなジンの発信により、酒造業界にも変化が

東京リバーサイド蒸溜所で作られた「LAST」シリーズをはじめとするクラフトジンは、世界的に権威ある酒類品評会「IWSC 2022」で、エントリーした商品のすべてが受賞する快挙を成し遂げました。2021年は「LAST」シリーズが最高賞である「GOLD OUTSTANDING」を受賞し、その品質の高さは海外でも認められています。

廃棄されるはずだった酒粕からクオリティの高いジンを作ったという事例が、酒造業界の生産のあり方そのものをエシカルな方向へ向かわせるきっかけになっている手応えを、小野さんは少なからず感じていると言います。

「蒸留器を持つほかの酒蔵さんに『自分たちもやってみよう』という動きが出始めたり、捨てていた酒粕の別の活用法を模索したりといった動きが活発になってきていると思います。さらに、各地の農家さんから、『こんなものも活用できないか』といった問い合わせを頂くことも増えています。

一例では、販売できない椎茸の軸の部分を使えないかという相談をうけて、実際に使わせて頂いたこともあります。
もちろん、使える素材に制限はありますが、これまで、ただ『使えないから』と捨てていたものが、『実は価値があるものなのかもしれない』と、生産品を最大限に生かす方法を模索する動きが農家さんの間でも広がっていると感じます」

東京リバーサイド蒸溜所の2階にある、同社直営のバーダイニング「Stage」。クラフトジンを使ったカクテルや、料理とのマリアージュを楽しむことができます

蒸留所の1階のオフィシャルストアでは、各種クラフトジンの購入や香りのテスティングができるほか、クラフトジンを用いたドリンクのテイクアウトも行っています

本社ビル屋上の農園では様々なハーブを栽培し、新しいフレーバーの開発に役立てているとのこと

つぎは間伐材や建築端材などを生かした、革新的な「木のお酒」を展開予定

今後の展望については、現在、茨城県つくば市に2つめの蒸留拠点の建設を予定しているとのこと。新拠点では、既存のスピリッツシリーズの増産のほか、同市にある森林総合研究所と提携し、樹木を原料とした「WoodSpirits(ウッドスピリッツ)」を生産していく計画だそう。原料となる樹木には、主に間伐材を活用されるようです。

「『ウッドスピリッツ』は、ジンやウォッカなどの蒸留酒と並ぶ、新しいジャンルのお酒となります。使われていない木材を活用できるという面はもちろん、今まで注目されていなかった木材の新しい価値を、森林総合研究所の技術と私たちが培ってきた実績や知見を生かして、世の中に届けていくというプロセスにも大きな魅力を感じています」

未活用素材をはじめ、素材の隠れた魅力を引き出すという取組に、終わりはないと話す小野さん。挑戦を続けるエシカル・スピリッツに今後も注目です。

公式サイト:https://ethicalspirits.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/trd_ethicalspirits/

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