食品ロス対策、なにからはじめる? 楽しくておいしい、食のロスゼロ生活を考える

本来食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食材や食品を指す「食品ロス」。現在、全世界で25億トンもの食品ロスが発生している(※)とされ、経済的な損失はもちろん、環境負荷の観点からも深刻な社会問題とされています。

私たちの生活においてもっとも身近な消費行動である「食」にまつわる問題。今回は、食品ロスの解消を通じて農家の支援をキッチンカーで行っている「eat for」の今関麻子さん、「食を通して、若者の視野を拡げる」をテーマに掲げ活動する学生団体BohNoの代表・萩原千夏さんと副代表・野田栞花さん、エシカルディレクターでTOKYOエシカルアドバイザーの坂口真生さんを招き、食品ロスにまるわる座談会を開催。食品ロスはなぜ発生してしまい、なぜ減らさなくてはならないのか。そして食品ロス削減のために私たちができることはどんなことなのか。それぞれの立場から意見を交わしました。

※:WWF「FOOD PRACTICE DRIVEN TO WASTE: GLOBAL FOOD LOSS ON FARMS」

食品ロスはなぜ問題?

―「食品ロス」はいまや世界的な社会問題になっており、多くの人が一度は耳にしたことがある言葉だと思います。そもそも、どのような理由から問題視されているのでしょうか。

今関:大きく分けると「環境負荷」「不経済さ」「食糧供給のアンバランスさ」が理由に挙げられます。

まず環境負荷について。家庭や飲食店、流通業者などから廃棄された食品の多くはごみ処理場に運ばれ、可燃ごみとして焼却処分されます。その過程では大量のCO2が排出され、地球温暖化などさまざまな面で環境負荷につながってしまいます。

不経済さは、ごみ処理の費用ももちろんですが、私たちの暮らしのなかからも生まれています。環境省の発表によると、食べ残しやつくりすぎ、賞味期限切れ食品や可食部の廃棄などによる食品ロスは、1世帯4人家族あたり年間約6万円分発生しているそうです。

食糧供給のアンバランスについては、日本での問題もありますが、よりグローバルな視点に立ったときに見えてくる問題です。消費者庁の2023年度「食品ロス削減関係参考資料」によると、日本では年間523万tもの食糧が廃棄されています。一方で、世界では発展途上国を中心に約9人に1人が貧困に苦しんでおり、そうした人々への食糧支援量はたったの年間約480万tです。この需給バランスのアンバランスさが改善されれば、もっと救われる命はあるはずだと感じています。

eat forを運営するEVOLUTION株式会社 今関麻子さん

eat for
規格外野菜や廃棄されるはずだった野菜を使って、キッチンカーで食事を提供。起業したきっかけは、2019年に発生した令和元年東日本台風。強風や暴雨などの被害によって、まだ食べられるのに出荷できない野菜や果物が出てしまったという農家さんのSOSの声を聞いて、そうした野菜を食べてもらえる仕組みが必要だと思い活動を開始。現在は「食べることが社会貢献に。」をテーマに、農家と消費者の間にwin-winな循環を作ることを目指している。

―坂口さんはエシカルディレクターとして、さまざまな企業や行政へのコンサルティングをされています。そうしたお仕事のなかで、食品ロス問題に触れることもありますか。

坂口:僕はファッション業界出身なので、今でも百貨店とお仕事をご一緒する機会が多いのですが、百貨店は服だけじゃなく食品やお惣菜もたくさん販売していますよね。そうした企業にエシカル教育を行うなかでは、食品ロス問題は避けては通れないものです。

例えば、百貨店の食料品コーナーには、ショーケースに大量の商品が並べられています。でも、それが100%完売することはなく、売れ残ったお惣菜やケーキは捨てられてしまうのが現実です。実際に店舗が記録している廃棄量のレポートを見ると、皆さんが想像している以上の量が毎日廃棄されているんですよ。

エシカルディレクター/TOKYOエシカルアドバイザー 坂口真生さん

野田:以前、BohNoのメンバーで食品ロスに関するディスカッションを行ったことがあるのですが、「ある程度の食品ロスは、経済を活性化させるためには仕方がないことだ」という意見を持っている人もいて、人それぞれ考え方が違うのを感じたことがあります。

萩原:確かに、ショーケースにたくさん商品が並んでいたほうが購買欲を誘うことができるし選ぶ楽しさもあると思うのですが、それによって生まれる食品廃棄については、消費者は目にする機会がほとんどないので、意識しづらい問題だと思います。

学生団体BohNo 代表・萩原千夏さん(左)副代表・野田栞花さん(右)

学生団体 BohNo
「食育」「食品ロス削減」「商品開発」の3つを軸に活動している学生団体。「規格外野菜」をテーマにした子ども向けの勉強会の開催や、おいしく食べられるのに市場に出回らない食材の販売イベントなどを実施している。商品開発では、行政や自治体と一緒に、地域の特産品や豊作で余ってしまった野菜を活用した、家庭で作れるお菓子のレシピ開発などを行っている。

坂口:日本の食品卸しや小売業界には、売り切れを出すことは「商機を逃している」ことになるとする考え方があって、もちろんそれはお客様のためであり、売上のためではあるのですが、食品ロスの観点で考えると改めるべき商習慣とも言えます。

日常のなかに潜む、食品ロス発生の原因

―生産された食品が私たちの手元に届くまでの間には、そうした業界のルールや商習慣があり、それが食品ロスを引き起こす原因にもなっている場合があるわけですね。

坂口:その代表例が、先ほどの在庫を切らさない商習慣の背景になっている「欠品ペナルティ」です。その名の通り、欠品・品切れによる販売機会の損失を避けるためのルールです。食品メーカーは、小売店から発注を受けた数量を納品できない場合、本来あるはずの売上を失った小売店に対して補償金を支払わなければなりません。メーカーは欠品ペナルティを避けるために必要以上に生産・納品しますし、小売店はそれが完売しなければ廃棄せざるを得ません。

萩原:食材や食品自体の傷はもちろん、包装材の傷も廃棄対象になるそうです。また、野菜や果物は市場流通に適したサイズや色、重量が決められていて、それにそぐわなかったら規格外野菜となり、廃棄になってしまいます。今はただ廃棄するのではなく、堆肥化する動きもあるそうですが、コストがかかるので結局捨てたほうが楽だという判断をする事業者もまだまだ多いと思います。

野田:欠品ペナルティのほかには、食品の製造日から賞味期限までの期間を3等分して、納品と販売期間を定める「1/3ルール」もありますよね。仮に賞味期限が製造日の30日後だとすると、製造業者は最初の10日までに納品し、小売店は20日までに消費者に販売しなければなりません。その期限に間に合わないと即廃棄になってしまうというルールなのですが、その食材自体の状態に関係なく廃棄されてしまう場合があるわけで、すごくもったいないなと思います。

坂口:資本主義に則ったマーケティングでは、どうしても売上を伸ばすことが優先されてしまい、その裏にあるロスやムダは見過ごされがちです。企業側も、だんだんと変わらなければならないと気づき始めていますし、具体的なアクションも始まっていますが、劇的な変化にはまだ至っていないというのが現状だと思います。

ロス削減のために使えるサービスと、日々の工夫

―なるほど。そんななか、昨今は食品ロス削減につながるさまざまなサービスも生まれてきていますよね。

坂口:そうですね、欧米で多くの事例が生まれている傾向はありますが、日本でも注目すべきサービスはたくさんあります。例えば、小売店と消費者を繋ぐフードシェアリングサービスの 。おいしく安全に食べられるのに、閉店までに売り切ることが難しい食品をレスキューし、ユーザーは定価よりも安く購入できるというアプリケーションです。参加事業者やユーザーの数も多く、食品ロス問題を意識し始めた人にとっ も使いやすいサービスなのではないでしょうか。

株式会社コークッキング/TABETE プレスリリースより

また、大阪生まれの「ロスゼロ」は、大手メーカーから訳ありの品を集めてオンライン上で販売しています。メーカーが抱える問題、つまり「訳あり」の理由をしっかり消費者に伝えているので、食品ロスの背景に対する理解を深めることができることも魅力です。なかでもユニークなのが、さまざまな訳あり食材やお菓子を詰め込んだ「ロスゼロ不定期便」。約2ヶ月に1回届くサブスクリプションの商品なのですが、参加するメーカーにとっても柔軟性のあるシステムだし、消費者にとっては届くワクワクを体験できるサービスなんじゃないでしょうか。

株式会社ロスゼロ プレスリリースより

最後に紹介したいのは、サービスではなくお店です。神戸・芦屋にある「Bar 芦屋日記」は、バーテンダーの草野さんは地球環境を考えたカクテルの第一人者として知られていて、例えばB級品のレモンを丸ごとブレンダーにかけたカクテルや、通常は廃棄になってしまう素材を活用したメニューを考案されています。単純にごみを減らすのではなく、クリエイティブなアイデアによって価値を生み出している稀有な存在だと思います。食もファッションも、エシカルであることによって楽しくなる、豊かになるということが大事なのだと、改めて気付かされます。

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今関:私がお世話になっている農家さんには     「せっかく実ったものだからおいしく食べてほしい」という気持ちを持っている方もいらっしゃるので     、そういった生産者さんと事業者や消費者がダイレクトにマッチングしていける場面が増えて、サイクルがもっと活性化したらいいですよね。

―ご紹介いただいたようなサービスが普及していくことは、先ほどのルールや商習慣を変化させるきっかけにもなるかもしれないですね。一方で、食品ロスは家庭のなかでも生まれてしまうものですが、日々の生活でロスを減らすためにはどのような工夫をすればよいでしょうか?

萩原:家庭では、買いすぎて腐らせてしまう、料理をつくりすぎて食べ切れない、賞味期限が切れてしまったので捨ててしまう、といった理由で食品ロスが生まれます。実際、私も一人暮らしを始めた頃は、買ったお野菜を食べきれずに捨てちゃっていました。今はつくる量をある程度決めてからお買い物に行ったり、もしつくり過ぎてしまったら友達に分けることで食品ロスをなるべく発生させないようにしたりしています。

野田:おいしく食べられる期間である「賞味期限」と、安全に食べられる期間である「消費期限」の違いは、私たち消費者が食品ロスと向き合う上でまず知ってほしい知識のひとつです。パッケージに書いてある賞味期限を過ぎてしまうと、食べることに抵抗感を覚える人も少なくないと思うのですが、実はそれは捨てるべきタイミングというわけではないのです。

坂口:各家庭でコンポストを取り入れるのもいいですよね。お子さんのいる家庭だったら、子どもを「コンポスト管理責任者」に任命して、家族で楽しみながらやってみるのもおすすめです。コンポストは食品ロスの量が可視化されるので意識も変わりやすいと思います。僕自身、コンポストを始めてから「ロスしちゃったな」という罪悪感を持つようになりました。

―これから食品ロスを減らしていきたいと考えている人は、まずなにから始めてみるのがおすすめですか?

野田:身の回りでどんな食品ロスが起きているのか、現状を知ることが大切だと思います。例えば、消費者庁が公開している には、質問に答えるだけで自分の食品ロスの傾向を知ることができるチェックシートが掲載されています。なかなか行動に移せない人にこそ、楽しみながらやってもらえたら嬉しいです。

おいしく、ムダなく料理をするために。過剰除去を減らす切り方を学ぼう!

萩原:「私にもできるかな?」ということが見つかったら、難しく考えずにとりあえずやってみたり、試しに暮らしに取り入れてみたりするのが良いと思います。日々のなかでできることとしては、野菜や果物の切り方を工夫する、ということもおすすめです。食べられる箇所も切り落としてしまういわゆる「過剰除去」をしないための切り方を知っておけば、節約にもつながりますし、料理の楽しさも増すと思います。

というわけで、今日は過剰除去を減らす野菜・果物の切り方をみなさんにお伝えできればと思います。まずは、ニンジンです。

野田:ニンジンは実はロスが出ない食べ物なんです。ヘタ部分は、フォークや爪楊枝を使って土を掃除することで食べられるようになります。水道で流しながら除去作業をすると楽だと思います。ヘタはぎりぎりのところで切って、千切りすると食べやすいです。

また、にんじんに限らず根菜類の皮は生ごみにされがちですが、栄養素の多い部分でもあるので、しっかり洗ってピーラーでむいて切ったあとに火を通しておいしく食べるのがおすすめです。

萩原:次に、オクラです。これもヘタとガクを丸ごと落としてしまう人が多いと思うのですが、ヘタの先端を薄く切り落としたあとに、ガクの縁を一周ぐるっと薄く剥けば、固い部分だけを除去することができます。

野田:ほうれん草も、除去部分を無くして全部食べられる食材です。ピンクの根の部分は通常は切り落とすと思うのですが、良く洗って十時に切り込みを入れることで、火が通りやすくなります。ここも栄養素がたっぷり含まれている部分なので、捨ててしまうのはもったいないんですよね。

萩原:果物も切り方次第で食べられる部分を増やすことができます。例えば、りんごは横にして、好きな幅で輪切りにしていきます。断面を見ると、中央に星型に配置された種があるので、種の部分に沿って包丁で切り込みを入れて、種だけを取り除いていきます。

「いただきます」の精神を忘れず、食と向き合う時間を

坂口:これまでは、ヘタは取ってしまうものと考えがちだったので、今日からは「工夫次第で食べられるんじゃないか?」と考えながら料理をしていきたいですね。

今関:そうですね。私も、普段からなるべく除去を減らそうとしてはいるのですが、さらに工夫できる部分があると思うので、研究していこうと思います。

―こういう「裏ワザ」は、知ると実践してみたくなりますよね。除去されがちな部分こそ栄養価が高い、というのも発見でした。

萩原:私たちもみなさんのお話から学ぶことがとても多かったです。食品ロス問題は世界共通のテーマだと思うので、今日新しく知ったことを活動に生かしながら、できることを広げていきたいと思いました。

野田:食品ロスは誰もが耳にする言葉ですが、あらためて食品ロスってなんだろうと考えたり、どういう問題があるかを見直したりすることで、新しい発見につながると思います。BohNoとしては、今後も一人ひとりが無理ない範囲で前向き     な気持ちで食品ロスに取り組むことができる方法を発信して、多くの人に行動を促すきっかけづくりを続けていきたいです。

今関:学生さんたちがこんなにも積極的にフードロスに取り組んでいることを知って嬉しくなりました。皆で連携しながらもっといい社会にしていきたいですね。

日本は「もったいない」や「いただきます」という言葉を持っている国ですから、それを体現するような持続可能な食の循環を生み出していかなくてはならないと思っています。便利な世の中になっていく一方で、人々のなかの食への敬意が薄れてしまわないよう、eat forも活動していきたいと思います。

坂口:エシカルもサステナブルも、決して我慢を強いるものではありません。もしハードルの高さを感じているなら、例えば味噌づくりのワークショップのような食関連のイベントに参加してみるだけでもいいと思います。現代人は、目の前に当たり前にある食材や料理がどうやってつくられているのか、向き合ってみる時間が足りていない人が多い気がしています。そういった時間を増やすことで、新しく広がる世界があると思います。

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