花のアップサイクルが秘める可能性とは? エシカルフラワーで新しい循環を提示するethicaを未来リナさんが訪問

さまざまな理由で廃棄対象となってしまった花は「ロスフラワー」と呼ばれ、その数は正確な廃棄量はわかっていないものの、一説には、年間約10億本、経済損失は1500億円とも言われています。
検品基準を満たさず規格外になってしまったものや、売れ残ったもの、結婚式などのイベントで役目を終えたものなど、私たちの目に入らないところでロスフラワーは大量に生まれているのです。

それらのロスフラワーを「エシカルフラワー」としてアップサイクルしているのが、株式会社ethica(以下ethica)です。ロスフラワーの有効活用は「もったいない」を解消するだけでなく、現場で働く人々の働き方も大きく変える可能性を秘めているといいます。今回は、ライフスタイルクリエイターの未来リナさんが蔵前にあるethicaのショップ&カフェを訪問。ethica取締役COOでエシカルフラワー事業部長の琴畑未来さんに、エシカルフラワーの特徴や花卉(かき)業界が抱える課題についてお話しをうかがいました。

ロスフラワーは業界の人材不足の原因にもなっている

未来:ロスフラワーの問題については個人的にも関心を持っていました。まずはethicaさんの事業内容について教えてもらえますか?

琴畑:ethicaは規格外品や廃棄になったロスフラワーをドライフラワーにして、少しでもお花を長く楽しめるようアップサイクルしている会社です。通常のドライフラワーとは異なる製法で作られていることもあり、「エシカルフラワー」と名づけています。

代表はもともと経営・事業コンサルタントをしていたのですが、企業がどのようなかたちでSDGsに取り組むべきかを考えるなかで、子どもからお年寄りまで誰にでもわかるような事業を立ち上げたいという思いを持つようになりました。そんな時、代表の知人の花卉業界関係者から「花の廃棄がすごく多い」という話を聞いたことや、コロナ禍でフローリスト(※)の仕事が減っている状況があることを知り、そうした課題を解決する一助になるよう、ethicaをスタートさせたのです。

※ フローリスト:花の仕入れや管理、店頭での販売、花束やフラワーアレンジメントなどのギフトづくり、配達までを担う職に就いている人

ethica 店内

未来:琴畑さんはもともとお花が好きだったんですか?

琴畑:実はお花がすごく好きだったとか、特別に関心があったわけではないんです。お花の業界ってすごくきらきらしていて、素敵なものを扱っているイメージがあると思うのですが、労働環境の面では長時間労働で低賃金であることが多い業界でもあります。正社員が少なく、イベント需要が高まる時期に派遣社員や契約社員を増員することもあります。私は、ethicaに入るまではフリーランスの人事コンサルタントとして働いていたので、そうした花卉業界の働き方を改善したいという思いから、ethicaの事業に参加することにしました。

株式会社ethica 取締役COO・エシカルフラワー事業部長 琴畑未来さん

未来:なるほど。確かにロスフラワーをアップサイクルするエシカルフラワーがビジネスとして成り立てば、業界に新たな雇用を生むことにもつながるんですね。ロスフラワーになってしまうお花のなかには規格外品の対象とされたものも多いということですが、具体的にどういう状態のものが規格外にされてしまうのですか?

琴畑:お花の種類にもよるのですが、例えば1本の茎にお花が3つ付いていたらA級品とされる品種があるとして、それが1つしか付いてしなかったらC級品という扱いになり、市場への出荷ができない規格外品となってしまいます。あと、お花って茎が太くて長いもののほうが高い値段がつくので、茎が基準より短いものも規格外品になります。日本の花卉の規格は世界的に見ても厳しいです。だからこそハイクオリティなお花が生産されているとも言えます。

未来:生産時からすごく厳しい基準があるんですね。では廃棄はどのような場面で生まれてしまうのでしょうか?

琴畑:廃棄が出てしまうのは、まずは輸送時です。輸送の最中に茎が折れてしまったり、お花が取れてしまったりすることが多いんですよ。あとは販売時。お花の市場は競りが行われる表日とそれ以外の裏日があるのですが、裏日には表日に売れなかったお花が安く売られます。それでも売れ残ってしまったお花は廃棄になります。買われたものも、たくさんのお花を使う結婚式やパーティーなどのイベントで使用されたお花は、1、2日で廃棄になってしまいます。お花は生産量の30〜40%が廃棄になっていると言われていて、本数にすると年間約10億本、およそ1500億円もの損失になっているんですよ。

未来:そんなにも多くの廃棄と損失が生まれているのですね。大量のロスフラワーが当たり前に生まれている状況は、どのような問題を引き起こすことにつながっているのでしょうか。

ライフスタイルクリエイター 未来リナさん

琴畑:ロスフラワーの発生は、業界の人材不足の原因のひとつになっていると思います。今、花卉業界は若手の農家さんが少なくなっていることが問題になっています。お花の生産は、土地を購入したり、ビニールハウスをつくったり、初期投資が多いことに加えて、お花の性質上、最初の1、2年は充分な質と量の収穫が望めない可能性が高く、その時期は思うように利益が上げられず、撤退してしまう方が多いのです。

しかし、1、2年目にうまく育たず販売することができなかったお花をethicaのような企業が買い取る仕組みが浸透すれば、ある程度はロスが出ても大丈夫だという意識が農家さんに生まれ、労働人口の確保に繋がっていくのではないかと思っています。ロスフラワーを活用していくことは、農家を守ることや日本独自のハイクオリティなお花文化を守ることにも繋がると考えています。

農家との連携で大切なのは丁寧な対話

未来:お花の生産にはそれだけのコストがかかるものなのですね。ロスフラワーの回収と買取りが当たり前になれば素晴らしいと思うのですが、各地で発生するロスフラワーをどのように回収されているのでしょうか?

琴畑:近所のお花屋さんだと自転車で取りにいくこともありますし、式場などのイベント会場から郵送してもらうこともあります。農家さんからはSNSを通して連絡や相談をいただくことも多いです。ただ、実は規格外品を収穫して私たちに納品することが逆に農家さんにとって負担になってしまうという場合もあるんです。

未来:規格外品は必ず発生するのに、それが負担になるんですか?

琴畑:そうなんです。明らかに規格外品だとわかるものは、収穫せずにそのまま畑に放置して枯れるのを待つことがほとんどなので、それらを収穫するとなると、その分の人件費がかかってしまいます。本来は私たちが直接伺って規格外品を持ち帰ることができればいいのですが、今のethicaにはそれを行うだけの余裕がまだありません。そのため、現在は例えば春に咲くお花と秋に咲くお花を育てている農家さんであれば、植え替えのタイミングで、一度畑をリセットするために規格外品を含めたすべてのお花を収穫するので、その際に規格外品をまとめて送ってもらうようにしています。そうすれば、毎週収穫してもらうというオペレーションよりも、農家さんの負担が少なく済みます。

もう1つ、回収で難しいのは、そもそも規格外品の花が発生しているということ自体を不名誉なことだと認識されている農家さんが多いということです。いわばお花の職人である彼らからしたら、クオリティの高いきれいなお花を生産することを目指しているわけで、私たちが安易に「規格外品はありますか?」と聞くこと自体が失礼にあたってしまいます。懸命につくっているのに、規格外品に注目されても困る、という気持ちはすごくわかりますよね。

未来:芸術家に「失敗作はありますか?」と聞くようなものですもんね。

琴畑:そのとおりです。農家としてのプライドをみなさん持っているのに、すごく失礼なことをお願いしてしまったと感じることもありました。そういった意味でも回収はすごく難しい。なので、実際に農家さんのところへお伺いし、畑の状態を見させていただきながら、丁寧に対話を重ねながら回収の相談を進めていくことが大事だと思っています。

回収されたロスフラワー

エシカルフラワーの鮮やかさの秘密

未来:回収の工程にもそんな難しさがあるのですね。そうして集めてきたロスフラワーを使ってつくられる「エシカルフラワー」は、ドライフラワーとは思えない鮮やかな発色に驚いたのですが、普通のドライフラワーとどう異なるのでしょうか? 花びらも萎んでいなくて艶がありますね。

琴畑:ありがとうございます。材料にロスフラワーを100%使用したエシカルな商品であるということはもちろん、ものとしての美しいということを重視しているので、そう言っていただけて嬉しいです。一般的なドライフラワーとは異なる製法をとることで、独特の発色・艶感・形状を実現しています。

製法における一番の特徴は、専用の乾燥機を使っていることです。花びらの特性ごとに乾かす温度や風の強さを調整して、お花の種類ごとに最適な環境で乾燥をしています。たとえばカスミソウのように小さなお花がたくさんついているものは、強い風で乾かすとお花が吹き飛んでしまい、ガーベラやコスモスなどの花びらが薄いお花は高温で乾燥させると花びらが縮みすぎてしまったりするので、日々実験を重ねることが大事ですね。

乾燥機に花をセットする様子

琴畑:乾燥機に入れるまでには、下処理の工程があります。茎についている余分な葉や花柄を取ってから、きれいなお水を2〜3時間程度吸わせる「水上げ」という作業です。これをすることでお花に張りが出て色味が鮮やかになり、茎もぴんとまっすぐになりやすい。エシカルフラワーの形状がきれいなのはこの工程があるからです。

水上げの様子

未来:ドライフラワーを作るために一度水を吸わせるなんて、考えたこともなかったです。

琴畑:そうですよね。水上げが終わってから乾燥に移ります。例えばスターチスのような小ぶりのお花の場合は、半乾きを防ぐために少なめの束にまとめて、熱すぎない温度に設定して乾燥機にかけていきます。乾燥が完了したら、スワッグやブーケに使用したり、1本ずつ商品として店頭に並べたりします。
途中で折れてしまったり、茎が短すぎたりするものは、お花の先だけトレイに乗せて乾燥させていきます。リースやフラワーボトルなどの作品作りに活用しています。

未来:手間をかけた工程があるからこそ、形や色などお花が本来持っている魅力が引き出されるのですね。ドライフラワーって完成までにすごく時間がかかるものだと思っていましたが、エシカルフラワーは、水上げも含め数時間で出来上がるのですね。

琴畑:そうなんです。朝にお花が入ってきたらその日の夕方には完成させることができます。Ethicaではリメイクフラワーのサービスもやっていて、例えば結婚式でもらった花束を送っていただけたら、それをエシカルフラワーにして最短翌日にはご返送できます。一度ドライにしたお花は、だいたい半年くらい持ちます。どうしても色褪せはでてきてしまうのですが、気にならなければ1年くらい飾られている方もいらっしゃいます。色が極端に抜けてしまったものだけ抜いて、好きなお花を継ぎ足して楽しむ方や、ボトルに花びらを詰めて飾ってくださる方もいらっしゃいますね。

エシカルフラワーで花のある暮らしをもっと身近に

未来:思い出の詰まったお花が長く楽しめる形に変わって、それを飾っておくことができるなんてすごく素敵です。私自身、本の出版イベントの時などに飾られるお花が廃棄されてしまうことが気になっていたのですが、これからはエシカルフラワーを使ったり、リメイクをお願いしたりするようにしようと思いました。

多くの人がエシカルフラワーのことを知って、お花の新しい循環のかたちが生まれていけばロスの減少につながっていくと思うのですが、琴畑さんは、私たち消費者たちにどのような意識を持ってもらいたいと考えていますか?

琴畑:まずは、目の前にあるお花がどんなふうに生まれてここにあるのかを想像してみてほしいです。想像すると、誰かがお花を切って、箱詰めして、届けてくれて、そこからまた商品にしているということがわかります。お花に限らず、そこには色々な人が介在して一人ひとりのところにあらゆるものが届いているんですよね。そういうことを当たり前に想像できるようになれば、世の中全体が変わっていくのかなと思います。

未来:そうですね。サステナブルというワードだけが一人歩きしがちな昨今ですが、個人も企業も、まずは想像することが大切ですね。その先に、私は「調和」と呼んでいますが、個人や企業がそれぞれのベストなバランスを見つけていくことが大切だと思います。

最後に、ethicaさんは今後どのような取組を展開していきたいと考えていますか?

琴畑:乾燥機をお花専用にカスタムして、フランチャイズ展開していけたらと思っています。全国の生花を扱うお花屋さんで導入していただければ、それぞれのお店でドライフラワーをつくって販売できるようになる。そうすれば廃棄も減るし、そのぶんお花全体の値段を下げることもできるはずです。値段が下がれば、お花がより身近で気軽に買えるものになりますよね。

また、現状、花びらが薄いお花はドライフラワーにすることが難しいのですが、そういう種類のお花をポプリやキャンドルなど、別の商品にアップサイクルする企画も検討しています。生花を買ったらethicaでドライフラワーにする、という習慣を浸透させて、多くの人にとってお花のある生活がより身近になったらいいなと思います。

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