TOKYOエシカル座談会#3 森林を守るために、都会で暮らす私たちが知るべきこと、できること
森林を守る、と聞いてみなさんはどんなアクションを思い浮かべるでしょうか。山に入って植樹をしたり、ゴミ拾いをしたり。もちろんそうした直接的な行動も有効ですが、日々さまざまなかたちで森林の恩恵を得ている私たちは、日常のなかの消費行動によっても、森林保全に貢献できるのです。
今回は、林業の発展・普及に取り組んでいる全国森林組合連合会の石原雅樹さん、エシカルな消費行動やライフスタイルの普及に取り組んでいる一般社団法人エシカル協会 代表理事の末吉里花さん、放置竹林の問題に取り組む学生団体BAM部 顧問の大井晃亮さんと、同団体で代表を務める三浦雪絵さんの4人に、森林保全について私たちが知るべきことと、とるべき行動についてお話を伺いました。
森林、なぜ大事?
—SDGsの推進や異常気象、自然災害が相次いでいることなどから、多くの人が自然環境について真剣に考える時代になりました。そのなかで「森林保全」というテーマは、国土の70%が森林に覆われている日本において、避けては通れないものです。しかし、都会に暮らしている人々にとって、森林の問題を自分ごととして考える機会はあまり多くありません。改めて、なぜ私たちは森林を大切にしなければならないのか、教えていただけますか。
石原:おっしゃるとおり、日本は森林面積の割合が非常に高い国で、先進国のなかでは3番目です。ちなみに、東京都における森林が占める割合は36%ほどです。
森林がなぜ大切かを説明するために、森林が果たしている役割を説明しましょう。まずは、土砂災害防止/土壌保全の機能です。土のなかにしっかり根を張った木々が山肌に生えていることで、土砂災害が起こりにくくなります。また、森林に降った雨や雪などの降水は地中に浸透し、地下水となり少しずつ流れ出ます。水源涵養(かんよう)と呼ばれるこの機能は、水を浄化し、洪水や渇水の緩和にもつながるのです。森林は「緑のダム」とも言われています。
全国森林組合連合会 石原雅樹さん
全国森林組合連合会
森林組合は、森林経営・管理のために、日本全国の森林所有者が資金を出して誕生した協同組合。現在、全国で605の組合があり、それらが都道府県ごとに連合会を作り、その連合会が出資して組織されたのが全国森林組合連合会(全森連)となっている。森林組合は森林所有者がお互いに協力して、林業の発展を目指すこと、また豊かな日本の森林を未来に繋いでいくことをミッションにしており、そのために全森連では、国産の丸太・木材製品の販売、林業で使用する機械や装備品などの資材調達、日本の森林・林業の発展に向けた政策提言・指導の3つの事業を柱に活動している。
人々を癒す存在としての森林の価値も重要で、最近では森林セラピーで心身の健康を整えるなどの活動も増えてきており、私たちの健康維持に大きな役割を果たしています。
そして、CO2を吸収する機能を森林が担っているということで、カーボンニュートラルや温暖化防止の観点からも非常に重要です。
そのほかにも、生物多様性を支えるゆりかごとしてや、景観や文化、宗教としてのシンボル性など、森林にはさまざまな役割があります。
大井:一口に森林と言っても多面的な役割があるのですね。ただ、学生時代に授業で「国内の森林活用は進んでいない」という話を聞いた記憶があります。それについてはいかがですか。
BAM部 顧問 大井晃亮さん
早稲田大学の学生を中心にしたインカレサークル。2020年に設立。埼玉県本庄市を拠点に、「持続可能なサイクルで地域の社会課題を解決する」という理念のもと、放置竹林の整備を行いながら、竹炭を用いた農業や、地方創生を促すような竹加工品の開発、販売やマーケティング戦略の考案までを行う。近年は、竹の活用の一環として、竹炭を練り込んだパンやホットドッグをキッチンカーで販売するなどの活動を行う。SNSでは放置竹林問題を周知するための発信も行っている。
石原:まさに、そこが日本の森林が抱える課題です。一般に建築材として使える木材は植えられてから45年以上の木を使いますが、日本の森林の半分以上は50〜60年経過した活用期にあるにもかかわらず、使用している木材のうち6割を輸入材に頼っているのです。
そうした状況になった背景は、第2次世界大戦時にあります。軍事物資として大量に木材を伐採した結果、戦後の日本は木材不足に陥りました。植樹を進めると同時に、1964年に木材にかかる関税を撤廃した結果、一気に輸入材の割合が増加しました。
国内の木が使われなければ、植樹を進めることが難しくなります。若い木のほうがたくさんのCO2を吸収し、たくさんの酸素を出します。次の世代に森林を受け継いでいくには、「伐(き)って、使って、植えて、育てる」サイクルが必要なのですが、それがなかなか進んでいない現状があります。
国産材を使うことが、日本の森を守る
—森林が力を発揮するためには、「伐って、使う」ことも重要なのですね。森林組合連合会さんでは「間伐材マーク」の普及に取り組まれていますが、間伐材もそうした健全なサイクルづくりに役立つものなのでしょうか。
石原:森林は放っておくと枝が混み合い、太陽光が地表まで届きにくくなってしまうので、木を間引くこと、つまり間伐でそれを解消する必要があります。そこで発生するのが間伐材です。間伐材の活用が進めば、間伐そのものが促進されて、森林保全につながります。
「間伐材マーク」は、間伐材でつくられている製品に付けるマークです。身近なところだとコンビニのコーヒーマシンに置いてある紙コップにも付いていますし、最近は大手ハンバーガーショップのコーヒーカップにもこのマークが付いています。消費者の方はこのマークが付いている製品を購入することで、間伐材の活用促進に貢献することになるのです。
間伐材マークの入った紙コップ
間伐材を使ってつくられたうちわとトレー
末吉:消費者の行動を変えていくために、こうしたマークで原材料についての理解を広めていくことは大切ですよね。私たち消費者が森林や環境にプラスになる行動を選択するようになれば、森林や気候変動の問題を解決する一端を担うことができると思います。
一般社団法人エシカル協会 代表 末吉里花さん
2010年から末吉里花さんが中心となってフェアトレード・コンシェルジュ講座(現エシカル・コンシェルジュ講座)を毎年開いたことをきっかけに、受講生たちのネットワークを強化。フェアトレード・コンシェルジュ第一期生の仲間2人と一緒に、2015年11月11日に法人として設立。エシカルな暮らし方が幸せのものさしとなっている持続可能な世界の実現を目指す。
石原:そうですね。日本で使われている国産材のうち半分弱は建築材として使われていますが、残りはチップやバイオマス、紙としての利用です。ただ、そうしたものは廃棄され燃やされるとCO2を排出することになってしまいます。「炭素固定化」といいますが、CO2を出さないためにはやはり木は木材として活用することがベストです。
大井:例えば、使い捨ての割り箸よりもマイ箸を持ってくり返して使う人もいますよね。国産の間伐材のものであれば、割り箸を使うことも環境に貢献することになるのでしょうか。
石原: 木を伐採すると「環境破壊ではないか」と誤解される方も多いし、実際に海外では環境破壊につながるような違法伐採も多いのですが、日本の森林は事情が違っていて、国産材を切って活用しないと森林がダメになってしまうんです。そういった意味でも、間伐材マークの商品を積極的に使っていただきたいと思いますし、割り箸も間伐材であれば使っていただきたいですね。
ただ、何もかもを木にすることが正解だとは考えておりません。無駄に木を使うのではなく、適材適所で活用していくことが大切だと思います。
“放置竹林と向き合うことは楽しい” 持続可能なサークルのあり方
—BAM部さんは「竹」を通して自然を守る活動を行っていますが、まずは設立の経緯を教えてください。
大井:社会課題に関心を持つようになってから色々と調べているうちに、放置竹林という課題に出会いました。「竹であれば、学生の自分でも切って整備できるのではないか」と考えて放置竹林の整備活動を始め、活動を継続するために早稲田大学のサークルとしてBAM部を立ち上げました。
最初は1人で1本1本竹を切っていましたが、やはり1人では限界があるので、こうした活動に興味がありそうな友だちに声をかけたり、SNSに活動をアップしたりして、仲間を集めていきました。放置竹林は、整備を一度止めてしまうとあっという間に元のように荒れてしまいます。そのため、長期間にわたって続いていく活動のあり方を重要視するようにしています。
竹林伐採の様子
伐採した竹を土壌改良材として活用するために竹炭に加工している様子
—1人でスタートされたとのことですが、現在は何人くらいのメンバーが在籍しているのですか?
三浦:現在は55人が在籍しています。地方出身者と首都圏出身者の割合は半々くらいです。都会出身のメンバーは、活動のために地方を訪れることや、その地域の人と交流したり、非日常を味わえることに楽しさを感じているそうです。地方出身者は「東京に来てギャップを感じた」と話す人が多いのですが、そうした異なるバックグラウンドを持つメンバー同志の交流があるからこそ、活動が楽しく豊かなものになっているのではないかと思います。
BAM部 現役代表 三浦雪絵さん
私自身も出身は青森県で、故郷は山のふもとに近い地域です。青森には竹が自生していないため地元で暮らしていたころは、竹林は「風情のあるもの」として親しんでいたのですが、大学に進学してBAM部の活動を知り、竹が自生している地域では「竹害(※)」という言葉が使われていることに衝撃を受けました。竹が厄介者扱いされている状況に対して「自分の手を加えることで、竹が魅力的なものに変わるのでは」と思って活動を始めました。
※ 竹害:管理されず放置された人工竹林で増殖した竹が、周囲の樹木を圧迫し、日光を遮断してしまうこと
大井:僕も地方出身なので、上京したときに、都会と地方で自然に対する距離感がこんなにも違うのか、と驚いた記憶があります。自然に触れる機会が少ないと、気持ちとしても関心が持ちにくくなるということを知り、自然に関わる活動がしたいと思うようになっていきました。
末吉:団体の活動を長く、活発な状態で続けていくための秘訣ってどんなことですか?
三浦:楽しい、ということがなにより大事だと思います。竹を切る作業は本当に大変なのですが、そうやって伐採した竹をどう使うか、ということまで考えられるのはすごく楽しい作業です。スマートフォンのスタンドをつくったり、子ども用のおもちゃをつくったり、販売も自分たちで行います。自分たちで新しいものを生み出す楽しさがあるから、メンバーも増えて、コロナ禍を経ても継続できているのではないかと思います。なので「奉仕している」という感覚はあまりないですね。
大井:埼玉県の本庄市にあるBAM部の拠点近くにある銭湯さんでは、私たちが伐採した竹を使った「竹あかり」を飾るイベントを行いました。竹を使って地域の賑わい創出に貢献できるのは、とても充実感があります。
BAM部が開催した竹あかりづくりの体験会(2023年度実施)
三浦: 竹あかりアーティストとして生計を立てている方々と協力したり、そのつながりで東日本大震災の慰霊祭で竹あかりをともすお手伝いをしたり、和歌山県のパンダが食べ残した竹で作る建築の手伝いに行ったり、といった機会もいただきました。こうした活動を通じて竹の商品開発の勉強をしたり、チャレンジしたりしています。
末吉:やはりこういう活動に関しては、学生の方のほうが豊富なアイデアを持っているし、フットワークも軽いのでアクションを起こしやすいですよね。私たち大人も学ぶべき点が多いように思います。
石原:竹は成長スピードが速いので、森林とは違った整備の大変さがありそうですね。
三浦:そうですね。樹木は切ったら植えるサイクルが大切ですが、竹の場合、切っても根が横につながっているので、そのまま何もしないと数年で元通りの放置竹林になってしまうんです。タケノコも夏なら1日で1メートル以上にも伸びてしまうし、収穫作業も大変なので、「伐る/採る」よりも「増やさない」ことを重視して、足で押し倒すようにしながら竹が増えるのを防いでいます。
大井:すぐに成長するので、持続可能な素材として活用できるなど利点もあるのですが、しっかり管理しないと人間の住むところまで侵食されるので、竹の活用をどう促進するかが大きな課題です。
三浦:竹を使った商品を提供しているメーカーさんもありますが、多くは中国産やベトナム産の竹を使っているんですよね。BAM部も企業の方からコラボレーションのお問い合わせをいただくこともあるのですが、私たちが整備している放置竹林は農家さんの畑の横や、山の斜面にある小規模のもの、所有者不明の竹林など、企業の方が手をつけられないところが多いのです。商品化する場合、大量の竹材を確保する必要があるため、自分たちだけでは国産の竹を大量に確保するのが難しいのが現状です。
ただ、だからこそ私たちのような小さな団体が拾える課題でもあります。私たちだからこそできる、竹を切って商品化して活用するというサイクルを作っていきたいと思っています。
“ストーリー”を伝えて、多くの人を巻き込もう
——森林にも竹林にも、それぞれ活用を促進していく上での課題があるということですが、それらをどうやってクリアしていくとよいのでしょうか。
大井:課題の根本にあるのは、森林や竹林に関心を持つ人が少ないという点ではないかと思います。
石原:そうですね。最近はSDGsへの関心が高まり、環境のために何かしたいという方は増えてきたように感じます。ただ、都会にいると、なかなか森林とつながりが生まれません。もし何かやってみたいと思っている方は、ボランティア活動や伐木体験イベントに参加してみるのもいいでしょう。
もっと手軽なアクションとしては、使う物を間伐材や国産材を使った製品に少しずつ切り替えていくのも良いと思います。都会はやはり消費が激しい場所なので、消費活動のなかで間伐材や国産材の製品を意識していただくだけでも環境保全につながります。
末吉:森林を意識したエシカル消費をどう活発化するかというのは難解な課題で、多くの方が悩まれているところだと思います。最終的には、消費者が買い物の時に意識していなくても、手に取った商品すべてが環境に配慮されているものになるのが理想ですが、それは企業側の努力だけで達成するのは難しいので、消費者の意識や行動を変えていかなくてはなりません。
その一歩としては、まずは「知る」ことがスタートになります。先ほどの間伐材マークのように、エシカル消費を促すさまざまなマークについて、商品を作る企業はもちろん、私どものような団体も伝えつつ、流通・小売の現場でも商品説明を行う際に「このマークは環境に配慮していますよ」と伝えることで、消費者側もしっかりその思いを受け止められるようになると思います。
正直なところ、いま世の中にある商品は、品質の上ではほとんど差がありません。だからこそ、消費者は何を選べばいいのかわからないのですが、そこで生きてくるのが商品の背景にあるストーリーです。BAM部の皆さんがつくっている製品は、どれも背景にストーリーがありますよね。単に製品を並べるだけではなく、そのストーリーを併せて伝えていけば、共感の輪が生まれるのではないでしょうか。
石原:確かにストーリー性は大切ですね。「森林を保有しているけれど、あまり使ったことがない」という企業さんに対して、木材を使った名刺作りを提案したところ、大きな関心を寄せてくださったことがあります。「自社森林を間伐して作った名刺」というストーリーで付加価値を付け、名刺交換に物語が生まれたわけです。こうした付加価値は、東京のような大都市でこそ効果を発揮できると思います。
都会だからこそできる森林との関わり方を
大井:今のお話はとても参考になりました。私たちは多くの方に竹製品を使っていただきたいと思って活動をしていますが、やはりそこは消費者の方1人ひとりの積極的な姿勢があるべきだと思いますし、私たちの製品がそうした方々に選ばれるように、しっかりとしたストーリーを伝えていかなければならないと思いました。
三浦:地方では当たり前のものを都会に持ち込むことで付加価値が付く、という点にも可能性がありますよね。東京はクリエイティブな人がたくさん集まっているので、竹という素材の可能性を知ってもらうことで、新しい製品作りが広がるのではないかと感じました。
末吉:都会にいるとやはり森を身近に感じる機会は少ないです。だからこそ、森に触れたり、木に触れたりすることがどれだけ気持ちが良いことなのか、その感動を多くの方に実感していただきたいですね。海外の大都市では緑化が進んでいるので、東京も今以上に緑化を進めて、誰もが気軽に自然と接する機会が増えるといいなと思います。
また、次世代に美しい日本の森林を残していくためには、小さなことであっても1人ひとりの取り組みがとても大事です。1人の100歩より、100人の1歩が世界を変える力を持っています。微力だとしても、その積み重ねがやがて、課題を希望に変えていくことにつながっていくと思います。
石原:環境のために何かをしたい、という気持ちは、多くの方のなかにあると思います。実際何をすればいいのかわからないという方もいらっしゃいますが、都会で暮らす方たちに関していえば、やはり「正しい消費」を学び、実践することが一番の貢献になると思います。まずは身近なところから、国産材、間伐材を使った製品というものがあるんだということを知ってもらえたらと思います。