革新的な印刷技術で実現する、OTSのクリーンで自由な服づくり。鎌田安里紗さんと探るアパレル業界の未来

なぜ、今世界にはこんなにも大量の洋服が溢れてしまっているのでしょうか? 低価格化のための過剰生産が当たり前になってしまった悪循環を断つために、服づくりの仕組みを根本から変える新たな技術に期待が寄せられています。

一般社団法人unisteps共同代表の鎌田安里紗さんが、従来のアパレル印刷では不可能だった小ロット生産と鮮明で繊細な表現を実現する「O-Perspective」という事業を立ち上げた株式会社オーティーエス(以下、OTS)を訪問。オーティーエスの広報担当者である金光広明さんに取材しました。

ファッション物流の“なんでも屋”として

鎌田:OTSさんはアパレル物流の会社ということですが、具体的にどんなことをされているのでしょうか?

金光:江東区と江戸川区に倉庫がありまして、アパレルメーカーさんからお洋服をお預かりし、百貨店さんや直営店さんに出荷するというビジネスです。1986年創業なので、今年で38年目になります。

メインの事業は物流なのですが、お客様のご要望をお聞きしているうちに、どんどんサービスが広がっていきまして。たとえば、海外のメーカーやブランドから商品を仕入れる場合、日本に届いた段階で不備があることも少なくないんです。過去には輸入した靴の半分くらいB品(※)だったこともありまして。

※B品:正規商品の品質条件をクリアしていない品のこと

左:一般社団法人unisteps共同代表理事 鎌田安里紗さん
右:株式会社オーティーエス 金光広明さん

鎌田:半分もB品なんですか!?

金光:船で運ぶ途中で濡れてしまったり、壊れてしまったりすることがあります。なにより、日本の品質基準が厳しいので、「海外ではOKだけど、日本ではNG」という場合も多いのです。そうした商品を修理のために本国に送り返すとなると、送料もかかりますし、その間に販売機会を逃してしまいます。そこで、私たちで修理も行うようになったのです。お洋服だけでなくバッグ、靴などの革製品、ジュエリーまで、修理職人が倉庫内に常駐しており、その場で修理し商品として販売できる品質に戻して、出荷しているのです。

EC(ネットショッピング)が主流になってからは、届いたお洋服を採寸して商品写真を撮影し、紹介文を作成するなど、ECサイト用のコンテンツ制作も手掛けるようになりました。

鎌田:商品撮影まで! 単に商品を預かって、出荷するだけではないのですね。そこまで幅広くやられている企業は珍しいのではないでしょうか。

金光:そうですね。イメージとしては、倉庫業というよりはサービス業に近いと思います。国内で生産された商品であれば、倉庫に入った商品をそのまま出荷できることが多いのですが、海外で生産された商品の場合は、洗濯タグや値札を日本用に付け替えたり、X線を使った検針機に通して衣服の中に針が残っていないかをチェックしたりする必要があるのです。倉庫内には常に100~150名ほどのスタッフが働いています。

鎌田:まさに、ファッション物流におけるなんでも屋”さんとして、ビジネスを大きくされてきたのですね。

つくり手の自由な表現を可能にする「O-Perspective」

鎌田:物流がメインの事業というお話でしたが、今日は大きなプリンターが何台も並んだ倉庫にいます。これは、アパレル用のデジタル印刷機ですか?

O-Perspectiveの核となるイスラエルのKornit Digital社製のプリンター「Presto」。従来のインクジェットプリンターでは困難だった色付き生地への白インクプリントや、ポリエステルや麻などの素材へのプリントも風合いを損なうことなく可能

印刷機の後ろに設置されているのは、専用の乾燥機。通常は印刷の後に蒸しと水洗といった工程が必要になるが、Prestoではそれらが不要になるため、排水を発生させないだけでなく、省スペースかつ省エネルギーで生産を行うことが可能

鎌田:従来の手法で印刷した生地と、品質的な違いはないのでしょうか?

金光:ほとんどないですね。従来のインクジェット印刷生地は、印刷部分がゴワっとした手触りになってしまうという欠点があったのですが、そこから多くの技術革新がありまして、触ってみていただけるとわかる通り、手触りや生地の風合いはほとんど損なわれません。色落ちや色移りの耐久度を表す「堅牢度」という規格においても、乾燥の摩擦堅牢度で4-5級と、衣服に使ってもまったく問題ない水準です。

また、この印刷機では、麻や絹、ナイロンなど、従来の印刷機では印刷が難しかった素材にも、鮮明に印刷をすることができます。線画で書いたような繊細な表現や、生地への塗布が難しいとされていた白インクも印刷することもできるので、これまでにない新しい表現が可能になります。適量かつエシカルな方法で、自由に服作りをしたいという気持ちを持っているデザイナーさんは今多くいると思うのですが、そういった方たちの役に立つものになってほしいと思っています。

鎌田:小ロット対応が可能で、印刷時の環境負荷も低く、今までにない新たな表現ができるのはすばらしいですね。従来の印刷と比べてコストはどのくらい変わるものなのでしょうか。

金光:現状、印刷コストは1~2割上がってしまいます。環境に配慮した方がいいことはわかってはいるものの、いざ発注の段階になると、コストの安い方を選ばれる企業さんは多いです。生産量が増えれば増えるほど、コストの差も大きく響いてくるので、特に生産量の多い大企業の方にどうやってシフトをしてもらうかは、今後の課題になってくると思います。

鎌田:環境へのコストが価格に反映されない現在の仕組みの中では、このシフトにハードルがありますよね。

金光:一方で、今は個人のデザイナーさんや小さなアパレルメーカーがECで簡単に洋服を売ることができる時代になっていることは、追い風だと思っています。注文を受けてから必要な量だけをつくる受注生産も増えてきているので、小規模でも尖った服をつくっているつくり手さんたちと組んで、徐々に適量生産を当たり前にしていく環境をつくっていけたらと思います。

印刷機への生地の差し込みや、印刷のオペレーションと品質確認、印刷された生地を乾燥機へ送る作業などはすべて手作業で行われます

「つくりすぎ」がもたらす「在庫」と「廃棄」の問題

鎌田:「O-Perspective」をはじめるに至った経緯についてもお伺いしたいのですが、OTSさんのメインの事業はあくまで物流、すなわち川下であって、生地の印刷のような川上のビジネスとは少し距離がありますよね。なぜ、本業から離れた新規事業を立ち上げることになったのでしょうか。

金光:背景には、「『在庫の問題』に苦しむアパレルメーカーさんたちを、なんとかして助けたい!」という社長の強い思いがありました。弊社の社長の田中(優一郎)は、大学卒業後、あるアパレルメーカーに就職したのですが、何年かしてそこが破産宣告を受け解散してしまいました。倒産の原因の1つとなったのが「在庫の問題」でした。

在庫がかさんでしまった結果、厳しい経営状況に追い込まれるアパレルメーカーさんは今も昔も少なくありません。一度は当事者としてその苦しさを経験し、OTSに入社してからも、同じように「在庫の問題」に苦しむアパレルメーカーさんたちを数多く目にしてきた田中には、「なんとかしてこの問題を解決したい」という思いがあったのでしょう。そうして、「物流業者として、どうすればお客様の『在庫の問題』を解決できるのだろうか」と考えた結果、辿り着いたのが「O-Perspective」でした。小ロットで生地を印刷できるようになれば、大きな在庫を抱えることなく、ブランドやメーカーさんが意欲的な服づくりにチャレンジできるようになると考えたのです。

鎌田:ファッションを専門に物流を手掛けていたからこそ、業界が抱えている課題の本質が見えていたんですね。

金光:そうだと思います。「在庫の問題」に加えて、「廃棄の問題」というのもあります。物流倉庫をやっていると、年に1回くらい「まったく在庫が動かないから、もう廃棄をしてくれ」という依頼が来ることがあるんです。依頼が来たらやらなくてはならないわけですが、まだまだ着ることができる新品の洋服に、時には手作業でハサミを入れて廃棄する作業は本当に心苦しいものです。

なるべく廃棄を減らすために「カイテン倉庫」という不良在庫になった衣類を代理で販売する事業もやっているのですが、そもそもの問題は「つくりすぎ」ている点にあります。だから、本業とはかけ離れてはいたものの、必要なときに必要な分だけ生地を印刷できる「O-Perspective」のようなサービスを始めたのです。

大量生産の常態化、そこで失ってしまったものを取り戻すために

鎌田:つくりすぎたら、在庫も廃棄も増えてしまう。それがわかっていながら、なぜアパレルメーカーは「つくりすぎ」てしまうんでしょうか。

金光:いろいろな要因があると思いますが、ファストファッションブランドの台頭がもたらした影響は大きかったと思います。こうしたブランドが登場したことにより、他のアパレルメーカーも、同様に大量生産をして1着あたりのコストを下げるか、OEM(※)で他社と似たような服をつくらなければ、生き残れなくなってしまった。

しかし、そうすると常に在庫がかさみ、セールでの値下げ販売が常態化し、消費者は定価で服を買わなくなる。よくないサイクルが根付いてしまっていると思います。

鎌田:そのサイクルの存在は、よくわかります。私は、ファストファッションが主流化し始めた2008年ごろから、渋谷の商業施設で販売員として働いていたのですが、服がどんどん売れなくなっていくのを店頭で感じていました。従来の価格では売れないので、コストを下げようと生地やプリントをいろいろ変えてみるのですが、その分品質は落ちて、良いものがつくれなくなっていく

それでもファストファッションに対抗できず、いよいよオリジナルでは洋服がつくれなくなると、韓国や中国に買い付けに行くんです。まるで地平線まであるのではないかと思うほど巨大な倉庫に、何万枚単位で量産されたトレンドの服があって、それを「これ30枚」「これ50枚」みたいな感じで買い付けて、自分たちのブランドのタグを付けて売るわけです。そこに別のお店の人も買い付けに来ていて、日本に帰ったら別のタグをつけた同じ服が並んでいるという状況を目の当たりにすることになる……。「いったい何をやっているのだろう?」と思ったのが、私がエシカルファッションに関心を持つようになったきっかけなんです。

※ OEM:発注元のブランド名で製品を委託製造すること

金光:おっしゃる通り、従来の方法では服がつくれなくなっていて、業界がどんどん「没個性」の方向に進んでいるのを感じます。今は「無地の服」が流行っていますけど、実際は無地が流行っているのではなく、柄物の服がつくれなくなっているのではないかと思います。

だからこそ、「O-Perspective」のような仕組みを通じて、この業界の現状を変えたいです。それぞれのブランドがやりたいことに挑戦できるよう、物流と生産の両面からお手伝いをさせていただき、ファッション業界を元気にしたいと思っています。

鎌田:素晴らしい取組だと思います。結局、デザイナー個人の哲学やクリエイティビティを受け止められるものづくりの仕組みがないから、みんなつくりたいものをつくれない。仮につくれたとしても、価格競争に巻き込まれてしまうとなかなか売れない。そうしたジレンマにもがいているクリエイターは、本当に多いと思います。そうした人々にとって「O-Perspective」は、革新的な手段になり得ると思います。

マインドを変えていくための鍵は「つくり手への想像力」

鎌田:ここまで、つくり手が「O-Perspective」のような仕組みへのシフトしていくことの意義やメリットについてお話しいただきましたが、消費者側も含めて、今後ファッション業界全体が変わっていくために必要なことは何だと思いますか。

金光:やはり、消費者のマインドが変わらないことにはつくり手もやり方を大きく変えることはできませんから、そうした変化は必要ですよね。「少しでも安く」という意識が結果として大量生産や大量廃棄につながってしまっているということや、エシカルなつくられ方をしたものにはそれ相応の手間とコストがかかることを受け入れてもらう。一番難しいことですけど、一番重要なことなのかなと思います。

鎌田:まさに、「適正価格」への理解をみんなで深めていく必要がありますよね。「お客様のために、企業は1円でも安く売る努力をすべきである。それこそが企業努力である」という風潮もありますが、その過程で環境や労働者へのコストが削られているとするとそれは適正な価格なのか。

金光:それは、どこをゴールにするのかの問題なのだと思っています。1年先をゴールに設定すれば、「なるべく安く」が「適正価格」になってしまいますけど、10年、20年、あるいは大きな時間軸で見たときには、おそらくその「適正価格」が、もう少し上がってくる。僕たちがどこまで長い目で見られるかが、いま問われているのだと思います。

鎌田:本当にそうですね。「長い目で見る」。やっぱり普通に生活していると、私たちの着ている服がどうやってつくられているのか、あるいは手放したあとにその服がどうなるのか、なかなかイメージが湧かないので、「長い目」を養うためにも、私はつくり手への想像力を持ってもらうための活動を行っています。

たとえば、「服のたね」という企画では、申し込んでくれた方にコットンの種を送って、それを自宅のベランダやお庭で育ててもらうんです。5月に種まきをして、夏くらいに花が咲き、冬になって実ができて、気温が下がってくると実が弾けて綿がとれるんですけど、その間には、虫が来たり、枯れたりすることもあって。実際に自分で育ててみると、お店で当たり前に並んでいる洋服をつくるのに、すごく時間と手間がかかることとか、農薬を使わずにコットンを栽培することの難しさを感じてもらえるのではないかと思います。

鎌田さんが主宰する「服のたね」プロジェクト

金光:すごく素敵な企画ですね。そういう方法で消費者の意識を変えていく活動があるということ自体に、勇気をもらいます。

鎌田:また、できた綿は、みんなで集めて紡績工場さんで糸にしてもらい、洋服をつくるんですけど、工場に行ってみると、「糸を紡ぐだけでこんなにたくさんの工程があるんだ」「そこは手作業でやっているんだ」と、たくさんの気づきがあります。それはやっぱり、現場に行くからこそ得られる気づきで。そうやって、つくり手の視点を少しでも体験することで、「これだけのプロセスを経てできた靴下が300円なのは適正なのか?」みたいな感覚が得られるんじゃないかと思っています。

ですので、今日みたいなエシカルな服づくりの現場に一般の人が見学に行けるような機会も、もっと増えたらいいなと思っています。「服が人の仕事の集積である」ということを、もっと世の中に伝えていきたいですね。今日はとても勉強になりました。ありがとうございました!

記事一覧へ