エシカルな取組の“伝え方”を考える。 TOKYOエシカルミーティング Vol.3をレポート

エシカル消費を日常とするための社会的ムーブメントを創出するプロジェクト「TOKYOエシカル」は、パートナー企業・団体とともに、カンファレンスやエシカルマルシェ、子ども向けの体験企画など、さまざまな取組を行っています。

2023年11月24日(金)には、パートナー企業・団体同士のより密な交流を図り、エシカル消費に関する意見を交換する「TOKYOエシカルミーティング vol.3」が開催されました。

今回は、24社のパートナー企業から34人が参加。「情報発信を考える」をテーマにグループワークを実施しました。エシカル消費について、より多くの消費者に関心を持ってもらうためには、どのような広報活動や情報発信をすべきかを考え、意見交換とアイデア創出を行った当日の模様をお伝えします。

ポジティブなメッセージで人を動かす

まずは、「TOKYOエシカルミーティング vol.3」のゲストとして雑誌『FRaU』の編集長・関龍彦さんとブランドマネージャーの園田徳一郎さんが登壇し、エシカルやサステナブルといった分野における情報発信の先駆者としてプレゼンテーションを行いました。

関さんと園田さんは、2018年12月に、女性誌としては世界で初めて1冊丸ごとSDGsを特集した『FRaU SDGs 世界を変える、はじめかた。』をはじめ、継続的にSDGs特集号やMOOKなどを刊行してきました。

『FRaU』 編集長 兼 プロデューサー 関龍彦氏

関さんは『FRaU』における情報発信の心構えについて「SDGsを伝える時に、『このままだと怖いことになるよ』という北風のアプローチも当然必要だけれど、『こうしたほうが楽しいんじゃない?』『より良い未来が待っているんじゃない?』という太陽のアプローチをしています」と、イソップ童話『北風と太陽』を引き合いに出しながら語り、ポジティブなメッセージで人を動かすことの重要性を参加者たちに伝えました。

『FRaU』ブランドマネージャー 園田徳一郎氏

何を、誰に、どうやって伝えていくか?

関さんと園田さんのプレゼンテーションを受けて、ワークショップがスタート。参加者は5つのグループに分かれ、各自がこれまでの活動のなかで抱えてきた情報発信に関する課題を抽出し、解決に向けた企画アイデアを考案するためのディスカッションを重ねていきます。

まずは課題抽出。それぞれのグループで共通して挙がったのは、プレスリリースやSNSなどで自社のエシカルな活動や取組について発信を行っても、そうした情報がどのように消費者に伝わっているのかが分からないという悩み。その悩みを具体的にひも解いていくと、効果測定やターゲット設定の方法、発信のための体制づくりはどうあるべきか、そもそも価値を感じてもらえる情報とは何か、といった部分に課題があることが明らかになってきました。

各グループを回りながらディスカッションの様子を見ていた関さんは「ある調査では、今の生活を守るか次世代に繋ぐかという選択をする時、日本は60%以上の人が今の生活を守ると答えたというデータがあります。誰に何を伝えるか、ということを考えるための指標として、こういったデータも1つの指標になるはずです」とアドバイスします。

続けて園田さんは、「サステナビリティ」という言葉に対して人々が抱くイメージが、時代によって変化してきたことを引き合いに出して、次のように語りました。

「『今の生活を守る』という価値観が先行している一方で、こんなデータもあります。『サステナビリティ』という言葉からどのようなことを連想するか、という調査で、2010年時点では主に、遠い、忍耐、不安、崩壊などといったイメージが挙がっていました。しかし、2021年になると技術進歩、多様性、サーキュラーエコノミーというような前向きな言葉が増えてきました。この変化を見ると、これからさらに一人ひとりの意識が変容していく余地があることも見えてきます。みなさんが現在取り組まれていることは、今後より多くの人の心に刺さるようになってくる可能性があるのだということは言えるはずです」

消費者との継続的なコミュニケーションを生むための企画アイデア

関さんと園田さんの助言を受け、ワークショップは後半戦へ。各班、抽出した課題をもとに、今後実行したい情報発信のための企画アイデアを創出していきます。

あるグループは、Z世代をターゲットに、楽しく、可愛くサステナブルを伝えていくためのマルシェイベントを提案。「エシカル消費」を促進するという目的地は一緒であるにもかかわらず、これまで協業できてこなかった他社とも手を取り合って、参加者がSNSで自発的に発信したり、行動変容をしたりするきっかけになるような体験型のイベントの実施を考えました。

情報発信にかかる時間・人員などのリソース不足や、継続的に情報発信を行うことの難しさを課題に挙げたグループが発案したのは、より多くの人たちに活動を知ってもらうための「TOKYOエシカル祭り」。各企業が屋台を出し、未来の購買層になる小学生とその親に企画運営に携わってもらいながらワークショップや物販を行い、イベントで体感したことを夏休みの自由研究などにも活用してもらいたいという展望を話しました。

一方で、自社の取組を発信してもエシカル消費やサステナビリティにすでに興味のある層へしか届かないのではないか、そもそも「エシカル」という言葉を理解していない人もまだまだ多いのではないか、という課題を挙げたグループは、「エシカル」という言葉を日頃聞き馴染みのある「もったいない」という言葉に言い換えてみるというアイデアを起点に、端材を使用したワークショップを企画。端材を使ったキーホルダー作りや、野菜の皮で染色する古着のアップサイクル、古紙の再利用など、使用する素材が発生した背景を学びながら、使い続けられるものを自分で作る体験型のプログラムを提案しました。

同じく、「エシカル」という言葉がわかりづらいのではないか、という課題をもとに議論を進めた別のグループでは、エンターテインメントの力を使ったアイデアとして、テレビドラマの制作を考案。エシカルという単語はあえて謳わず、ドラマのなかにエシカル的な描写をふんだんに盛り込むことで、視聴者にそうした意識を根付かせ、より本質的な気づきに繋げることを狙います。

また、ビジネス向けの事業を行っている企業が集まったグループでも、一般消費者にどこまで情報が届いているのかが不明瞭で、企業ブランディングがしづらいということが課題に。そこで、まずは一般消費者に「知ってもらう」「使ってもらう」「理解してもらう」「ファンになってもらう」というプロセスを考案し、「知ってもらう」の一歩目として「TOKYOエシカル」をプラットフォームとしたウェビナーの開催を企画。一般消費者とのダイレクトな接点を作り、情報発信の土台作りをすることの重要性を語りました。

共通した課題から多種多様なアイデアが生まれた「TOKYOエシカルミーティング vol.3」。会の締めには、関さんと園田さんから総括が述べられました。

「エシカルな社会はある日突然生まれるわけではありません。今は、消費者や企業、国、自治体が同じ意識を持って、エシカルという価値観が中心になる社会を熟成させている時期です。そのために私たちがすべきことは決して楽なことばかりではありませんが、今日、皆さんの表情を見ていたら辛そうな顔をしている人は一人もいなかったです。社会に対して前向きな気持ちを持っているから良い表情になるのだと思います。今日議論されたような内容は、未来のための土壌を耕すための取組なのだと思って、諦めずに、楽しみながらやっていきましょう」(関)

「みなさんのお話を聞いて、私もまだまだ知らないことが多いのだということを痛感しています。そして、それは同時に、エシカルやサステナブルを志す仲間がたくさんいるのだということであり、心強さを覚えました。これだけ多様な業界の方たちが、それぞれの立場でエシカルのためにできることを考えているという光景を拝見して、こうした現場から新しい文化や価値観が醸成されていくのだと思いました」(園田)

ワークショップ後は参加者同士が交流するネットワーキングの時間も設けられました

業種や業界の垣根を越えて活発な議論が行われた「TOKYOエシカルミーティング Vol.3」。エシカルな思いを持って行っている取組を消費者に伝えるとき、そこにはビジネスという関係を越えたコミュニケーションが生まれます。そして、それはとても楽しく、ポジティブなものなのだということを、参加者たちは実感したはずです。

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