TOKYOエシカルアンバサダー紀野紗良さんとアドバイザー末吉里花さんの対談
今回の対談は、東京大学大学院生でメディア活動もされている「TOKYOエシカル」アンバサダーの紀野紗良さんと、一般社団法人エシカル協会の代表で精力的にエシカルの普及活動をされている「TOKYOエシカル」アドバイザーの末吉里花さんにお話しいただきました。
日常生活の中での気づきから気軽に始められるエシカル消費について、紀野さんと末吉さんの対談を通じてご紹介します。
「おたがいさま」「もったいない」などはエシカル消費に通じている
末吉 私が一般社団法人エシカル協会という団体を立ち上げた2015年頃に比べると最近は「エシカル」という言葉がだいぶ一般化してきたように思っています。紀野さんはいつ頃エシカルについて意識し始めましたか?
紀野 実は「エシカル」や「エシカル消費」という言葉は最近まであまりなじみがありませんでした。ただ、エシカルのような考え方や姿勢というのは、幼少期から少しずつ身についてきていたのかなという気がしています。
末吉 たとえばどのようなことでしょうか?
紀野 末吉さんの書籍に「日本人には昔からもったいないの精神がある」と書かれていたと思います。私は幼少期に「ご飯を1粒でも残したら農家の人に申し訳ないよ」と親に言われて育ってきたのですが、そのような経験を通して、まさに末吉さんのおっしゃる「もったいないの精神」が自然と身についていました。
末吉 そういう教えがあって、自然と身について、ご自身で当たり前に実践していらっしゃることがあるのですね。「おたがいさま」「足るを知る」「もったいない」「お天道様が見ている」といった、日本人が古くから大切にしてきた精神がエシカルだというと、身近に感じていただけることがよくあります。
紀野 親からもそのような教えは折々に聞かされていました。
末吉 紀野さんが大学院で行っている研究もエシカルに通じるところがあるのかなと思っているのですが、具体的にどういう研究をされているのでしょうか。
紀野 分かりやすく言うと、サステナブルな素材開発の研究をしています。カーボンニュートラルな天然資源を使って、石油由来のプラスチックに代わる素材ができないかといった内容です。
末吉 エシカルの世界も日々進化しており、今までよしとされていたものが変わるということも感じています。未来の素材に向けた最先端研究というのはすごく魅力的ですね。
紀野 一方で、研究活動はともするとアカデミック領域にとどまりかねないので、より多くの人にこのような研究領域があるということを知ってもらえるとうれしいです。末吉さんが、エシカルを意識されたきっかけはどのようなことでしょうか?
末吉 私自身は、TBS系「世界ふしぎ発見!」というテレビ番組のミステリーハンターとして世界中を旅したことが今に影響しているんです。秘境と言われる場所に行くほど、一握りの権力や利益のために、美しい自然や弱い立場の人たちが犠牲になっている構造が気になっていきました。
紀野 私は、日頃、ものが生産され、自分の手元に届くまでの背景までなかなか考えることはなかったのですが、末吉さんの書籍を拝読した時に、自分の無意識な無関心にはっと気づかされました。たとえば、服に綿花が使われるというのは知っていましたが、その綿花がどのように育てられ、収穫され、工場に運ばれ、服に加工されるのかなんて考えたことがなく…。そのような目を向けるべき背景がたくさんあるのですね。
末吉 私もいまだに知らないことばかりなのですが……アフリカの6,000m近い山、キリマンジャロに登ったのが1つのターニングポイントになりました。地球温暖化で氷河が溶けてしまっているということで取材に行ったのですが、ふもとの小学校で子どもたちが木を1本1本植えているのに出会ったんです。「どうか再びあの氷河が大きくなりますように」と願いながら。
紀野 地球温暖化が進んでいることや森林の伐採の話を授業で学んだことはありますが、それを目の当たりにされたのですね。
末吉 当時の氷河は、すでにもとの1、2割にまで減ってしまっていました。そこに住む人たちの死活問題に直結していること、そして日本での暮らしもそこに影響しているかもしれないと思ったことで、いてもたってもいられなくなったんですよね。それでエシカルに関わる取組を始めました。
エシカル消費の種を育てていくために必要なこと
末吉 知ることから始まると思い、私自身も発信することに力を入れているのですが、紀野さんたちの世代は、学校でも学ぶ機会が私たちの頃よりも多いのでしょうね。
紀野 小学生の頃からSDGsにつながるような題材を学ぶ機会がいろいろとありました。大人になってからも、そこで学んだことを、何かに触れた時に思い出したり活用したりすることがあるので、知識としては頭の片隅にしっかりと残っていると思います。
末吉 一方で、知ることと行動に移すことにはやはりギャップがあって、行動につなげるためには何がカギなんだろうと、私自身も活動をしていて悩むことがありますね。実際、全国6,040人の方にアンケートをしたときにも、「エシカル消費に興味がある」人は全世代で6~7割いるのに、「実践している」という割合はぐっと下がっていました。同世代の周りの方々を見ていて、いかがですか?
紀野 買い物のときにプラスチックの袋をもらうよりマイバッグを持ち歩いた方が良いというような感覚は、当たり前になっている世代だと思いますが、それでも「自分じゃなくてもいい」と思う気持ちがどこかにあると、主体的な行動にはなかなかつながらないのではないかという気もします。日頃の話題にエシカル消費があがることも少ないですね。
末吉 もう少し身近なことで話題になって、プラスチック袋以外にもエシカルな行動が増えたり、幅が広がっていくために、どのようことが考えられると思いますか?
紀野 もっと大学でも学ぶ機会があっても良いのかなと思いました。高校までは授業で必然的に触れられるのですが、大学になると自らそのような授業を選択しない限り触れられなくなるので。意識的に行動しないと、意外と学びの機会がないんです。
末吉 確かに……最近、エシカル消費は中学や高校の教科書にも載るようになりましたが、大学は必修でもないですね。
紀野 そうなのですよね。高校までに学んできたのが「種」のようなものだとすると、高校卒業後もその種を育て続ける環境が必要なのかなと思いました。
末吉 社会人になっても学ぶ機会が続くといいですよね。スウェーデンにエシカル消費の視察ツアーで行ったことを思い出しました。日本に比べるとエシカル消費が20年以上先行していると言われる国なのですが、何でこんなに進んでいるかと尋ねたら、教育だと言われたんです。幼少期から社会人までずっと学ぶ機会があると。
紀野 やはり教育が大事なのですね。
末吉 日本でも教育で取り上げるようになりましたし、「もったいない」精神などもありますし、ここから広がっていく段階になればと感じています。
紀野 私の祖父母くらいの世代は、日本に根付く「もったいない」の精神で時代を生き抜いてきたと思っています。その世代から直接アドバイスをいただける今のうちに、しっかりと取り組むべきテーマだという気がします。
バランス意識を持って、楽しんでエシカルな選択をする
末吉 紀野さんは日頃、どういうところで買い物をされていますか? 食材だと近所のスーパーマーケットでしょうか。
紀野 そうですね。手軽に近所の店頭で買えるものを手に取ることが多いです。ただ、やはり「農家の誰々が作りました」というような札があると、それを買いますね。顔の見える商品だと安心しますし、よりおいしそうに見えるんです。
末吉 すごくその気持ち、わかります。それは結構、本質ですよね。顔が見えれば、相手が悲しむことはしたくないし、無駄にせず、大切にしたいと思うはずです。作り手の顔が見えるというのは、1つのカギかもしれませんね。
紀野 最近はSNSで生産者の方が発信するのも見かけます。きっとそれを応援したい、買いたいと思う人がいるだろうと拡散するように心がけています。知らない人が知る機会になったり、生産者を応援しやすい雰囲気を作ったりすることも大事かなと思って。
末吉 発信して人に伝えるというのも行動の1つですよね。紀野さんはインフルエンサーとしても活動されていますが、発信する時に意識していることはありますか?
紀野 たとえば「どこどこへ行きました」だけではなくて、「どこどこへ行きました。この場所知っていますか?」のような書き方は工夫しています。そうすると、意見をたくさんコメントしてくれるようになりますね。
末吉 問いを投げて考えてもらうというのは、ちょっと考えてみる良い機会につながるポイントかもしれないですね。エシカルも、何か正解があるわけではなくて、それぞれの人が自分の頭で考えるのが大切なので。
紀野 「こっちの方がいいよ」と言われてただ買うのではなくて、なぜ良いかを考えることが、より良い選択をし続けるためにも必要だと感じます。ただ……やっぱりおしゃれもしたいし、流行りの服も買いたいと思う時に、エシカル消費ばかりにもなれなくて。どのように両立していけばよいのでしょう。
末吉 その気持ち、よく分かります。バランス感覚を持つことは大事ですよね。たとえば服はおしゃれ優先で買うけれども、他のジャンルではよりエシカルな商品を選んだり。あるいは常に服を買うのではなくて、人と交換して楽しんだり。
紀野 服の交換というのはなかった発想です!
末吉 実際に、服のエクスチェンジというイベントがあるんです。自分なりのストーリーのタグをつけて交換会をする場。そういう楽しさが入ってくるとまたいいですよね。
一人ひとりのエシカルな行動が、輪となり、社会を変える力に
末吉 もう1つお伝えしたいのは、消費者としての権利です。もし好きなブランドがあれば、「私はそのブランドのファンです。だからこそ、その商品の裏側を知りたい」というような声を届けることができます。実はこれが社会変革につながる大きな一歩なんです。
紀野 スーパーなど1つの販売店に10人のお客さんが同じ意見を表明すれば「多数派の意見」として経営の中枢部に届く、たった10人の声でも物事が変わる、ということを末吉さんの書籍で知ってびっくりしました。
末吉 多くの人の行動が変われば、企業もそれに合わせて変わっていきます。企業が変われば行政にも影響があるかもしれない。つまり、消費者の声や選択で、社会の仕組みや法律をまでも変えることができる、ということです。
紀野 ただ、まだエシカル消費という言葉自体もそこまで知られていない気がするのですが、どうしたらその言葉をもっと知ってもらえるのでしょう?Twitterで「エシカル消費を知っていますか?」と発信した時にも、知らないという反応が結構ありました。
末吉 エシカル消費がどういう行動なのかを、具体的に伝えていかないと、その言葉と結びつかないかもしれません。たとえば「もったいない精神」で行動する人はすでにエシカルな行動をとっていることに気づいていないだけかもしれません。TOKYOエシカルもエシカルな行動が何かを伝える情報を発信したり、体験できる機会を提供していくことができればいいと思っていますが、紀野さんはTOKYOエシカルにどういうことを期待していますか?
紀野 TOKYOエシカルがいつかプロジェクトとしては終わりになった後でも、都民の心の中にはエシカル消費を続けようという気持ちや行動が残り続けるような展開になっていくと嬉しいですね。
末吉 まさに本質ですね。一時的ではなく皆さんの心の中に根づかせていくこと。エシカルというのは哲学のような概念で、SDGsの目標を達成するためにも必要な心のあり方だと思います。そうした心を大切にしながらSDGsの達成を目指すことで、初めて社会のサステナビリティが向上する、と考えています。紀野さんがおっしゃったエシカルの「種」を植えていけるようなプロジェクトにしていけるといいですよね。
紀野 「エシカル」「SDGs」「サステナビリティ」という言葉の関係性に悩むことがあったのですが、今のお話で理解が進みました。
末吉 「持続可能な開発」という言葉もありますが、実は「開発」という言葉は仏教用語で「かいほつ」と読み、「内なる心を耕す」という意味があるそうなんです。
紀野 そうなんですか!「開発」と「エシカル」とが相反する感じもしていたのですが、その観点はしっくりきました。
末吉 今日の対談を通じて、エシカル消費に対して考え方が変わった点はありますか?
紀野 もともとはエシカルという言葉を漠然と認識していたのですが、かなり明確になったなと思っています。どういう考えを持ったり、どういう行動をするということかが、具体的に見えてきました。まずは私自身、1人の消費者として自分の頭で考えて行動を選択していこうと思います。そして、消費者としての権利を有効活用し、好きなブランドにはファンですときちんと伝えた上で、ポジティブなコメントをしていきたいなと思いました。
末吉 素敵ですね!TOKYOエシカルのアンバサダーとしては、今後どのように活動されたいですか。
紀野 皆さんの中にもったいない精神で考えるような「種」があるとすると、私が皆さんの「水」になることができるのではないかと思いました。エシカル消費についてTwitterで発信した時に、「知らないから調べてみるね」というコメントがあったんです。それがうれしくて。そのような知ろうとする人、考える人、実践する人が増えていくことに何かしら関わっていけたらと思っています。
末吉 フォロワーの方とも刺激し合っていこうというような考えが魅力的ですし、これからが楽しみですね。もっとたくさんの人と一緒になってTOKYOエシカルが進んでいくように、私も、紀野さんも、パートナー企業・団体の皆さんも、都民の皆さんも、ぜひみんなで一緒に、消費行動を通じた人や社会、環境に優しい社会の実現に向けて、活動していけたらと思います。